日本市場向けに専門家が選んだスペインの新刊書籍をお届けします。
今回は以下の専門家の方々に選んでいただきました:
野谷文昭(選考委員長:名古屋外国語大学教授・東京大学名誉教授) (以下あいうえお順/敬称略) 酒井七海(元書店員)/ 塩田知子(フリーランス編集者)/ 吉田彩子(清泉女子大学名誉教授・スペイン王立コルドバ・アカデミー会員)/ 米田雅朗(新宿区立大久保図書館館長)
各書籍のレポートを担当したのは以下の方々です(あいうえお順/敬称略)
青砥直子 / 今木照美 / 宇野和美 / 小原京子 / 笠原 未来歩 / 佐藤晶子 / 嶋田真美 / 高際裕哉 / 轟 志津香 / 長神末央子 / 平野麻紗 / 宮崎真紀 / 村田名津子 / 横田佐知子/ 吉田 恵 / Amadeu Branera
住所不定のある男との友情は、真面目なある学生をどんな怪しげな情動にかりたてるのか? 息子の文学的資質に無関心な、ごく平凡な両親のもとで育った青年は、出所が怪しい金を使いちらす男によって、危険で不道徳な未知の世界へと導かれる。本の中でしか知らなかった領域に入りたくてたまらない、危険を求める青年と、アウトサイダーのような人生を送って得体のしれない男との間には、曖昧な親愛の情や、利用したり惹かれたりという絆が創られていき、ふたりはある冒険を共有することとなる。
ヨーロッパの中心にいる十代の若者や大学生は、実在の虚無を満たすために、きわめて現代的な思考と古い原理的な信念を併せ持っている。それは文化の土台をゆるがし、私たちを地獄の奥底へと落下させる。21世紀のネット社会を生きる理想主義の若者たちは、中世風の正義の味方を名乗る者のなかに白馬の王子がいることを期待している。だが、おとぎ話が語られる前に正義の味方は死んでいきかねない。メソポタミアの古い信仰の性の奴隷は、非人道的な屈辱を甘んじていた。
マリアナ・エンリケスの世界は私たちの世界とは無縁のようだが、読み進めるうち最後は自分のものとなる。数行でもその世界に足を踏み入れ、空気を吸ったならば、生き生きとした感情表現のとりこになり、忘れられなくなる。細分化され悪夢となった日常に読者はうちのめされ、ストーリーやイメージに感情をかき乱され、それらが頭から決してはなれなくなる。例えば、「激越な女たち」と自称する集団は、ウイルスと化した重度の家庭内暴力に抗議する。
1938年。ヒットラーにより世界平和は脅威にさらされていた。ナチスはどの国に対しても不滅の体制を誇っていた。だが、実際にはそうではなかったのは、ある意味、ガルボという偽名で知られるフアン・プジョルがいたからだ。ガルボは自信に満ち、更にはごまかし、大胆さ、尽きない想像力、人間的魅力などありあまるほどの長所があった。1940年、彼はそれまでで最も重大な決断を下す。ナチスを倒すまで闘うこと、しかもそれをドイツ軍の内側からしようというのだ。しかし彼はひとりではなかった。
枢軸国とのつながりが明白であるにもかかわらず、フランコ体制が第二次世界大戦後にも存続したのは、終戦後に構想された国際関係の新しい秩序における概念的歴史的アナクロニズムの結果だった。本書は、1975年に死去するまで独裁者フランコが権力の座にとどまるのを可能にした、1945年から1953年までの複雑な世界情勢の外的な決定的要因の説明を試みる。