13歳のナンネル・モーツァルトは、天才作曲家ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトのお姉さんだ。ヴォルフリ(モーツァルト)はその年ごろのどの子もそうであるように、遊びといたずらが大好きで、大人の世界はよくわからない。パーティは好きだけど、宮廷やお屋敷に招待されるのは好きじゃない。そういうところでは、まるで珍しい生き物のように見られるから。姉さんは弟のことをいちばんよく知っていて、弟が責任と義務感で爆発しそうだと感じると、弟のために素晴らしい世界、リュッケンの魔法の王国を作り出す。
偶然に見つかったフォルダの中に、タイプライターで書かれ、作家テセオ・イェドラの署名が入った200枚の原稿が入っていた。作家がエージェントに送ってから30年経っており、受領した証拠もなかったが、テセオ・イェドラの作品の専門家たちは、大きな文学賞を受賞したばかりの当時、大いに待ち望まれていた彼の新作であると確信した。今こうして原稿が出てきたということは、その作家が33歳の誕生日の前夜に本当に原稿を送ったという証拠である。
1866年のロンドン、ホセ・ロドリゲス=ロサダは何度となく、自分の過去から逃げるはめになる。子どもの時に親元を離れたあと、彼は政治的理由によりフェルナンド7世の絶対王政のスペインからイギリスに亡命する。そして、故郷よりずっと進歩したロンドンという大都会で、未来への希望がうっすらと見えかけてきたとき、時計職人としての不断の情熱とすぐれた腕前をかわれ、世界じゅうが知る時計、ビッグベンの修理という仕事を大急ぎですることになる。しかし、だれも自分の過去から逃れることはできない。
1097年4月12日。ドーノックの小さな城に、背が高い痩せた男が到着する。背中が少し曲がり、鼻が奇形の男。スコットランド王マクベスの息子、マクベスだ。彼がやってきた目的は、バンクォーの息子フリーアンスに会うためだ。罪と血の歴史がふたりを結んでいる。王の座を手に入れるための陰謀で、罪を犯したマクベス王は復讐によって首をはねられて死んだ。それから40年の時が流れる。60代になり、足元さえおぼつかないふたりの老人は今何をしようというのか? 短剣抜きの決闘。
1923年、プリモ・デ・リベラ政権は29年開催のイベロアメリカ博覧会を訪れる観光客の目から都市周辺の貧困地帯を隠すことを決定する。教会もないその地域で貧困のうちに子どもを亡くす母親たちにとっての唯一の慰めは、亡骸の写真を思い出として残すこと。そんな場末の地区にできた安宿は、数年のうちに県で一番大きくて安い、悪臭の漂う売春宿になった。ふたりの偉大な女性ダビニアとチェの物語は、1882年、クリスティナ・サラサル=エスポシトが13歳を迎えたときに始まった。
1913年、エルサルバドル大統領マヌエル・エンリケ・アラウホは、野蛮な農民グループにマチェテ(山刀)で切り殺される。彼らは誰を殺しているのかさえよくわかっていなかった。首都中心の公園で起きたこの流血の事件の中で、アラウホ大統領を銃で負傷させる任務を負ったエルサルバドル軍の元将校も、農民グループと共に捕まった。農民たちは裁判を受けることもなく、大統領暗殺の10日後、軍により銃殺された。元将校は、独房で自分の拳銃で自殺をしているのを発見されたが、それに驚いた国民は少なかった。
十二宮三部作:ある年、ひとつの宮、1件の犯罪。2012年1月、ドラゴンの年が始まった。中国の十二宮で唯一の神話上の動物であるドラゴンは、知恵と権力と富を象徴する。過激派組織「バスク祖国と自由」(ETA)が武力抗争の完全停止を発表して以来、のどかなサンセバスティアン市では重大な犯罪も起こらず、毎日は平穏に過ぎていた。しかし大学の化学部で男子学生の首切り死体が発見されると状況は一変する。捜査を担当するのはバスク州警察殺人捜査担当警部マックス・メディナ。
アンナはアイスランドの小さな漁村フーサヴィークの図書館員。ある日、結びに「あなたを愛する父より」と記された手紙を受け取った時、それまで固く閉ざされ決して開かないと思っていた心の扉が開く。それは過去と向き合い、自分の本当の素性を明らかにすることを意味していた。両親はなぜアンナを捨てたのか? 彼女は本当は誰なのか? 昔のピアノ教師は何を助けてくれるのか? 明らかにするには、かつて両親が住んでいた廃屋に入るしかない。たとえ言い知れぬ恐怖があろうとも。
タシオ・オルティス・デ・サラテは優秀な考古学者だが、20年前に平穏なビトリア市を震撼させた不可思議な殺人事件で有罪判決を受けた。彼が最初の仮出所で刑務所を出ようとした矢先、再び犯罪が起きる。20歳のカップルがビトリアの旧大聖堂で真っ裸で死んでおり、その喉には蜂に刺された跡があった。それから間もなく別の25才のカップルが有名な中世の建物コルドン館で殺された。