夜、眠れない男、眠る女。男はまどろみのあいだだけ現れるイメージにふけり、「不眠は熾火のような赤い目をした暗い獣だ」と思う。天気予報の原稿を書くアルコールに溺れた元船乗り、「監視されて退屈な」フランコ独裁政権時代のバルセロナに現れる日本人学生など、かつての友人たちが、夜明け前、想い出がつくりあげた幽霊となって、ひとりずつ出てくる。登場人物の人生、現実になるとは限らない彼らの運命は、人生の中で他者が占める真の位置について、読者に自問させる。乾舷(つまり海から出ている部分。
「エルズミーアホテルはハイドパークの南、ロンドンの高級住宅街、ピーターパンの作者の住まいのあったサウスケンジントンにある」奨学金のおかげで大学に入学できることになったリリーは、このホテルに泊まることになり、その豪華さに呆然とする。しかしメレディスにとっては、そのホテルはごく当たり前の場所で、アバにとってもそれは同じだった。アバの一番の関心事は、しつこいコナーにどんなに迫られようと、自分の秘密が明かさないこと。