いきなり成果を収めるのは簡単ではない。必ずしもいつも完璧な文章が丸々書ける訳でもない。ゼロは丸だし、ミートボールやジャガイモだって丸だ。物事は見かけによらない……それとも、見かけどおりか。この本は作家のための手引書。小説は現実の写しなのか? それとも現実は小説を超えるのか? オーケストラの指揮者は音の製作者、それとも単なるオブザーバー? 読者は単に読むだけか、はたまた本と影響し合うのか? 作家とは天性のものなのか、それとも成すものなのか?永遠の謎… 小説の書き方を知るには最適な本。
不倫の恋人たちは、偽りの感情も本当の感情も、同じ確信をもってかわしあう。それが繰り広げられるのは、ほかに証人などいないふたりきりの場所だ。だが、もし偽りが真実で、本当は、夫に取って代わるのを恐れているのだとしたらどうなるだろう? この物語の語り手である無名の男は、この疑問を解き明かそうとして書いているのではない。「別の人間になりきり」、不貞を理解できたなら気がすむのだ。自分の中には、感情の絶頂と賞味期限があり、愛人の中には、既婚者であるのを嘆くだけの投げやりな感情があるのを認識している。