バルセロナが単なるカタルーニャの州都ではなくなってから、もうずいぶんたつ。地中海の中軸であり、世界で最も多くの人が訪れる街のひとつである。この奇跡の街が、世界中の人の目に天国と映るのはなぜだろう。ほかの街とどこが違うのか。どんな人々が住んでいるのか。チェックしよう。これがバルセロナだ!
「互いのことを意識するばかりで街の様子も殆ど目に入らぬまま、彼らはセーヌ通りを歩いた。ジャンピエールは好感を持たれたい一心で、案内人としてそのあたりの珍しいものを説明し、彼女は黙って聞いていた。歩道が狭くなったところでお互いの手が自然と触れ合った気がした。肌と肌が。彼はゾクッとした。日陰のテラスに大勢の観光客が座っているブシ通りに曲がり、すぐにサンジェルマン通りに出た」セーヌ左岸で画廊を経営するジャンピエール・サナルディは自由人。
アサリアはのどかな山村。石畳の白い通りのこの村は、ミゲル・プリモ=デ=リベラの独裁政権による政治の激動とも無縁だった。しかし、グティエレス家の高齢の兄妹カンディドとパキタが殺害されたことで村の日々の平和が突然破られる。治安警察が慌ただしく介入し、住民のひとりを逮捕し厳しく尋問したことから村で反乱が起き、中央政府は事件解決のためにロベルト・マルティン警部を送り込んでくる。同じ頃27歳の独身の娘イネスはひとり、兄妹の殺害について探り始める。