ボルヘスの蔵書を収めた図書館は彼の名前を冠した財団内にあり、その書籍のほとんどが哲学や宗教といったテーマを扱ったものだ。それらを著した⼈々を通じて、この天才の⼈⽣哲学のカギとなるものが見える。それはすなわち、幸福だ。『アレフ』の作者は、我々に素晴らしい図書館を残した。本書ではそのうちの数冊しか⾒られないが、その幸福のカギを発⾒することはできるだろう。彼が読んだ哲学者や神秘論者の本のいくつかが、彼の作品に決定的な影響を与え、そしてその作品が我々によりよく生きる道を教えてくれるのだ。
地下35メートルの深さに、マドリードで最も厳重に隠されてきた秘密がある。90トンのゴールドとその他計り知れない価値がある財宝。それは、特別なセキュリティー(装甲板の扉、堀、破ることのできないセキュリティ・システム…)で守られている。そこに入ろうと試みたものは誰もいない。いくつもの前代未聞の信じがたい盗みの容疑者で、イタリアで引退中の「ラ・ガタ(雌猫)」でさえも、それをしようなどとは考えなかった。しかし、状況が変わった。
本書La Casa(家)は、歴史書や建築学の専⾨書ではない。かといって、⼈類学についてのエッセイでもなければインテリアに関するマニュアルでもない。本書には、⼈類の始まりから今の私たちに⾄るまでの歴史が集められている。これらの歴史の主⼈公となるのは家庭であり、何世紀にもわたって家庭を構成してきたすべてのものだ。
アデライダ・ファルコンはシングルマザーに育てられた。そのため家族と呼べるものは後にも先にも⺟と⾃分が築いていた関係しかないと固く思っていたが、その世界も⺟の死によってなくなった。貧しく失望した彼⼥が喪に服して暮らしている街では⾷料が⼿に⼊らず、わずかに⼊⼿できた⾷料も市⺠同士で強奪。強権的な政府は略奪し、誘拐し、殺⼈を犯していた。その全てがアデライダが閉じこもろうと決めた世界、すなわち⺟と暮らしていた家と外界との間で起きていた。抗議と政治的抑圧が続く⽇々。
本作品は地図といえるだろう。キューバの島々に共存する不思議な⼈々や⼈⽣模様を浮き彫りにした地図。本書をひもとけばハバナに残る悪魔の⾜取りを追ったり、マヤの⼥祭司や⽔を神と祀る宗教の数少ない最後の信者たちと話したりすることができる。洞窟や⼲ばつとハリケーンに⽴ち向かう町々を訪ね、あるいは恐れを知らないカイマンの捕獲者たちと⼀緒に湿地帯を歩くことも。⽇々シュールな世界に⽣きるキューバの⼈々を発⾒することができる本。
⽇本⾵の怪獣ゴルシラが、仏教僧の純粋さと、無政府主義者の強さと、ふたつの脳より⼤きな⼼でスペインを旅する。寓話と社会的クロニクルの間で、オリウエラはこの主⼈公を冗談好きで⽪⾁屋のオルター・エゴ(別⼈格)として使う。この⼩説は他者と自己の境界を分けるアイデンティティについての考察であり、掟、シンボル、⽂化的価値観を⼀掃しようとする試みである。掟、シンボル、⽂化的価値観の中に深く根を下ろした社会は、帰属と集団⽣活のシステムに従わせるには好都合だが、同時に虚偽に満ちている。
4つの⼤陸(ロス・カメロスからリフ地⽅の⼭、コロラドのキャニオンからパキスタンの街かど、パリのスラム街からロンドンの⾦融街シティ、そしてジュネーブからフィンランドのアーネコスキーを通ってシャモニーまで)をまたにかけ、「正常」という基準によって屈服させられていない様々な⼈間が住む世界を巡って書かれた本書。刺激、グロテスクな状況、極東のエキゾチックな歴史、そしてまた、⾯⽩い戦いを超えたものを私たちに⾒せてくれる。
これは幽霊の話だ。帰還に始まり、咆哮とともに終わる⼩説。Les possesions (憑依)の語り⼿は、バルセロナからパルマに旅し、⽗親の偏執的な陰謀のスパイラルにブレーキをかけようとする。⽗親は退職と同時に穏やかな学校教師から⼀転、都市犯罪疑惑に対して法廷闘争を始めた。居⼼地の悪い週末、突然見知らぬ人間へと変貌した⽗親との会話、何事もないかのように振る舞う⺟親、そして古い恋⼈でよき助⾔者だった男。
若い共和党員の医師ギリェルモ・ガルシアは、フランコ勝利後も親友からもらった偽の⾝分のおかげでマドリードに住み続けている。外交官だった親友は1937年にガルシアに命を助けられた後亡命したが、危険な秘密の任務を帯びて1946年に帰国する。その任務とは第三帝国、即ちナチスが犯罪者を隠匿するために作った地下組織に潜⼊すること。マドリードでその組織を率いていたのはクララ・ストーファーだった。