亡くなった父親を埋葬するためにダニエルは特別な車で生まれ故郷へ向かう。その車とは霊柩車。運転手はコメディアンさながら、一風変わったおしゃべりなエクアドル人だ。ダニ・モスカとは果たしてどういう人物なのか。彼自身が言うように単にロマンチックな歌を作るだけの男なのかもしれない。しかし貧しい地域で育った子供であることも間違いない。そして人生に往々にしてあるように、ひょんなことから深い絆で結ばれる友と出会う。音楽を生業として旅を重ね人生を謳歌した。
800年前、異端のカタリ派によって荒廃した土地で、アラゴン国王ペドロ2世兼バルセロナ伯は、強大な軍の先頭に立っていた。キリスト教徒の土地で初めて招集された十字軍を相手にした野戦でその戦いは熾烈を極めていた。十字軍を指揮するシモン・ド・モンフォルは異端のカタリ派の鎮圧を試みる。カトリック王(El Católico)の異名を持つペドロ2世は、ローマ教皇イノケンティウス3世により戴冠を受け、異教徒を相手に戦ったラス・ナバス・デ・トロサの戦いで勝利した王だ。
イディルの塔の交霊術師たちは、物語に出てくる交霊術師とは違っている。彼らは生娘を生贄にしたり死をもてあそんだりはせず、本とまじないに埋もれて勉強するのみだ。ずっとそこで暮らしてきたクラレンスはその穏やかさが気にいっている。だが、外の世界を知るアサンは飽き飽きし始めていた。ちょうどその時、人の命を奪う猛毒がマラビリアで売られるようになり、平和の日々が終わりを告げる。誰かが至急解毒剤を見つけなければならない。その代償が自分自身の命であったとしても。
これは姉弟の物語。弟、ロロ、16歳。姉、レナ、クラックとヘロインに溺れている。レナが家を出て1年が過ぎた。ある日、ロロはマドリードのバラハス空港で姉を見つける。彼女はそこで、つまらぬ盗みを重ねながら金を稼いでいた。ロロは自分と一緒に家に戻るようレナを説得しようと、レナが麻薬を買うスラム街についていく。レナはそこに住んでいるらしい。しかし夜が更け、ロロは地獄のような様相をみせる混乱した現実に直面する。
ラ・アロンドラ(ひばり)ことクリプタナ・センシは有名なソプラノ歌手で、長いことアルツハイマーを患っている。彼女の伝記執筆を依頼されたジャーナリスト、ペドロ・ベンナサールは、記憶を失ったひとりの女性の過去を探っていかなければならない。クリプタナ・センシはなぜ記憶を失ったのか? 何を忘れたかったのか? 何を忘れ去ることができたのか? クリプタナがその生涯のうちにやり取りした手紙を発見したとき、ペドロ・ベンナサールは彼自身の人生も立て直すべきだと気づく。
近未来のスペイン。市民運動「直ぐに解決!」という名の新しい政党が選挙で大勝した。この政党を影で支配しているのは成功を収めている起業家で、国を企業と同様に運営するというのが持論である。多額の投資と想定される脅威に対する様々な計略を駆使し、新しい監視体制を敷いたりインターネットへのアクセスを制限したりする。
蝶のやさしいキスを知ってる? ワニの力強いキスは? 牛たちはどうやってキスをするの? プレゼントのキス、びっくりさせるためのキス、友情のキス……。空想の旅のあいだに、キス一家のおちびさん、シトはあらゆる種類のキスに出会う。あなたたちも一緒に旅してみない?
すでに「ほぼ」すべてを手に入れたとしても、危うさも興奮もない人生って何? たとえそう思っても、不誠実な女友達の秘密を暴くことは、非常に危険なゲームになりかねない。40歳の誕生日、大富豪の未亡人として有名なミランダ・リッベントロップは、きらびやかな雰囲気の中で過ごしていた。だが人生に物足りなさを感じていた彼女が突然、その場にいた3人の女友達に「トップ・シークレット」という名前のゲームへの参加を勧めた時から、物語はスリリングな展開を見せ始める。
道に迷った人が知らない場所で自分の身に起きたことを語る。来た道を戻ろうとして、驚くべき場所を見つけたり、しばしば、よりによって自分が知っている人や人生における重要な経験と関係のある人々に出会ったりするのだ。それ故、患った病気の明瞭な記憶が際立つ旅は、同時に回帰であり、発見でもある。そして、物語が進むにつれてどんどん始まりの雰囲気を帯びるようになるのは、物語が大切なものの喪失を思い起こさせるからだ。短く、ドキッとするようなシーンの連続で始まり、詩的で簡潔なスタイルで胸に刻み込まれる小説。
生まれながらのフィクションの才能とスキル、ユーモア感覚を持つアンパル・モリネールのような作家だけが、このような短編集を書くことができるだろう。冒頭から終わりまで、読者を感動させ楽しませる文学の宝石だ。今の時代の病弊を独特のユニークな方法で浮き彫りにする。洞察力と皮肉に満ちたこれらの物語は、私たちが普段からどんなにばかばかしい問題にさらされているかを見せ、怖がらずに生きることや、愛情の対象を傷つけずに愛する方法も教える。