この両親を、自分で選んだわけじゃない。好みも得意なこともそう。誰を好きになるかとか……敵さえも選んだわけじゃない。才能や弱点も。罪だってそうだ。生まれる国も、愛する人たちが私たちを呼ぶのに使う名前だって、更にその愛する人たちも自分が選んだわけじゃいない。人生が私たちを選ぶのだ。そして時には、人生にも選べないことがある。心の痛みから逃れるためにある世界をでっちあげるしかない男と、新たな世界を作り上げる代わりに自らの痛みを誰かに肩代わりさせようとするもうひとりの男。
自らの闇と向かい合うためにバレンシアに戻ってきたイバンは、彼の人生を変えてしまうことになった、あの1992年の日々を思い出す。空き地に放置された建物の残骸、欲求不満をかかえた地元の友人たち、自らを守る鎧のように使っていた若者言葉や服装、逃げ場となっていたカセットに吹き込んだ歌、不確かさの大海原に彼らを引きずり込む暴力の連鎖、それぞれの悩みで沈没寸前の家族、思いがけない死によって崩れ去った危うい均衡。