家族関係の危機と主人公のアイデンティティの問題をめぐる小説。主人公の17歳の少女は、自分の中で作り上げた理想の世界が崩れ行く様を目の当たりにし、バルセロナの裕福な家庭の只中で、シェークスピアのハムレットからエレクトラに至る文学的モティーフを展開していく。一歩引いたところから、彼女は自分の家庭生活の凡庸さや欺瞞を暴き、実の父エウセビオ・バイセレスのような登場人物を動かす隠れた打算を白日の下に晒していく。この父親が主人公の復讐の標的となる。
ギリシャのERTテレビ局が閉鎖した。そこで働いていた男性ジャーナリストは経済危機を理由にヨーロッパ第2の公的テレビ局が閉鎖したことを巡る疑念と悲惨さを、もろに体験する。様々な出来事が狂ったようなスピードで起こる状況の中、アンドレアスとノラは誤解を受け、地中海の両岸に存在する極右の標的になる。現実とフィクションを大胆に織りこんだこの推理小説は、恐怖、狭量、希望が混在する経済危機下の南ヨーロッパ社会に読者を引きずりこむ。