自らの闇と向かい合うためにバレンシアに戻ってきたイバンは、彼の人生を変えてしまうことになった、あの1992年の日々を思い出す。空き地に放置された建物の残骸、欲求不満をかかえた地元の友人たち、自らを守る鎧のように使っていた若者言葉や服装、逃げ場となっていたカセットに吹き込んだ歌、不確かさの大海原に彼らを引きずり込む暴力の連鎖、それぞれの悩みで沈没寸前の家族、思いがけない死によって崩れ去った危うい均衡。本書は90年代の世界を描き、当時人生のイニシエーションの時期にあった若者たちの心に開いた傷に踏みこんでいく。ザ・クラッシュ、ニルヴァーナ、イギー・ポップ、コルタトゥ、ダニエル・ビグリエッティ、パブリック・エナミーなどの音楽がバックに流れる、心ふるえる小説。ふたつの世代が張り巡らす愛の蜘蛛の巣が、読者をからめとる。