子供時代と思い出についての小説。丁寧に並べられた小さなスライドを通してバルセロナを投影し、時空の旅ができる素晴らしい作品。すりむけて泥や血がこびりついた膝小僧から、バケーション最後の日さよならを言う時に感じたあの喪失感に至るまで、ひとつひとつの体験はあまりに甘美で、主人公の気持ちにすんなり感情移入できる。
Cròniques de la veritat(隠された真実クロニクル)はカルデルスの小説の中でカギとなる作品であり、スペイン内戦後の読者にとって、すばらしい作家の登場であった。カルデルス独特のユーモアと幻想は年月とともに強くなり、深くなり、あいまいさを増していった。そのあいまいさはエドガー・アラン・ポーから、ルイジ・ピランデルロ、マッシモ・ボンテンペッリを経てフランツ・カフカにつながる幻想文学をいつもとりまいていたあいまいさである。
少女リディアをとりまく世界は、終末的な災禍によって壊滅状態だ。リディアの住む街は火と煙にとり囲まれ、だれひとり助かりそうにない。リディアは父親と兄カルロスと一緒に、母親を探す長い旅に出る。行ったら最後もう前の自分にはもどれない、帰れない旅へ……。誰をもひきつけてやまない、最高におもしろい成長物語。