子供時代と思い出についての小説。丁寧に並べられた小さなスライドを通してバルセロナを投影し、時空の旅ができる素晴らしい作品。すりむけて泥や血がこびりついた膝小僧から、バケーション最後の日さよならを言う時に感じたあの喪失感に至るまで、ひとつひとつの体験はあまりに甘美で、主人公の気持ちにすんなり感情移入できる。言葉探しパズルで遊んだこと、ドライブで車に酔ったこと、一列につながってならんでパティオ(アパートの中庭)に下りて行った時のこと、あるいは大人たちがしつこく繰り返したあの意味不明のフレーズ「お行儀よくしなさい!」。私たちの記憶への旅、一見取るに足らないようにみえるひとつひとつの瞬間と幸福への旅。見かけは取るに足らないけれど・・・