まずこの小説は実在の人物が出発点だ。世界で最も強大な権力を持った男のひとりで、ニューヨークの高級ホテルの1室においてホテル従業員の黒人移民女性を暴行したと訴えられて、慌てて帰国の便に乗り込んでいたところを逮捕され、世界中のニュースや討論や巷の噂をにぎわせた男だ。著者は、そこに端を発し、物語を再現するだけにとどまらず、想像力と叙述力の豊かな才能を発揮して、文学が持つ変化球でその物語に取り組む。表現方法も内容も圧倒的に過激な試みのなかで、この実在の人物がDK、偉大な神Kに変身する。
2011年夏、ポル・バルサックは、抗議デモ中の妨害行為により彼を逮捕しにきた警察からのがれようと、自宅のベランダからぶらさがって外に出る。しかし、不思議な物理現象が起き、ポルの身体は異次元へと運ばれる。城のある美しい街、現実のものとは思えない動物たち、密林のジャングルがある幻想的な世界だが、奇妙なことにポルは親しみをおぼえる。その世界で生きのびるためには、ポルは伝説の男カルバダンになりすまし、天災に脅かされている住人を救わなければならなかった。