シグルズ・マットはバルセロナに帰って来た。この地を去ってから30年の月日が流れていた。当時は未確認動物学に入れ込んでいて、同級生のベレールやシェーグレンと一緒に超常現象の謎を探ろうとやっきになったり、公式の科学の教えに反する危険な動物や存在しない動物を追いかけたりしていた。師と仰ぐ人たちがそうしていたように、普通の科学を「公式の科学」と呼んで軽蔑していた。しかし2007年も終わろうとする今、疲れ切った負け犬のシグルズはピレネー山中の小さな村ボルに向かった。
「メディアが提供するマドリードのイメージはとても興味深い。一日がリッツから始まり、昼はインターコンチネンタル、夜はパレスホテルで終わるが、もちろん、貧乏は相変わらずだ」マドリードの若い政治特派員として、バルとニュースルーム、本とガールフレンドたちの間を行き来しながら人生を始めることは、ピカレスクあるいはストイシズムを気取る口実になる上に、作家を目指すジャーナリストにとっては何よりすばらしい修業の機会となるものだ。
ミスターフランキーことフランシスは、生まれ育った土地に戻ることにした。ロックンロールの夢を追い求めて、一度はそこから飛び出した。ロックンロールはその指先で彼の頬をちょいとかすめ、束の間の有毒な名声を与えたが、今は貧しさや麻薬中毒とおさらばする時だ。しかし地元の古い地区は、未だに父親や腹違いの妹、初恋の相手、数人の友人がうろつく廃墟だった。何もかも新しくやり直したいフランシスだったが、昔のしがらみや、3分間の歌があり、過去の自分を捨てきれない。
不穏な言い伝えが残るストラディバリウスのチェロ、謎の失踪、未解決事件、一筋縄ではいかない幽霊話――2019年7月、世界の主要紙は衝撃的なニュースを大々的に報じた。「著名チェロ奏者レベッカ・ブラックウッド、嵐の夜に消える。夫、助手とともにヨットで航海中」。警察による必死の捜索活動や緻密な捜査でも、彼女の身に一体何が起きたのか手がかりがつかめないまま3ヶ月が過ぎる。そして10月31日、レベッカの死亡宣告まで残り数時間。
ニューヨークからバラハス空港に着いたカルロス・Hは疲労困憊しきっていた。出迎えに来た自分の母親と恋人の姿を見つけ、だるそうに歩き出した彼だったが、到着を待つ群衆の中に美しい女性を見かけて、ついついそっちに足を向けてしまう。「ミスターノバック」と書かれたボードを持ったその若い女性にカルロスは、「こんにちは、ノバックです」と手を差し出して・・・この無謀ななりすましから、カルロスはこれまでの人生とはまったく異質な世界に深く引きずりこまれていく。何もかもとんでもない世界に。
サルダーニャで療養中のガウディが重篤な病の床でしたためた21通の書簡。その中に示されたこの偉大な建築家の胸のうちを元にフィクションを交えて綴った本作は、ガウディ本人が家族、仕事、友人への想い、そして情愛、野心、失望について一人称で語る興味深い作品である。作者のシャビエル・グエイは、ガウディのほぼ全てのプロジェクトに資金提供を行ったエウゼビ・グエイの末裔であり、本書は、ガウディとその世界的に有名な建築物について、われわれが抱き続けてきた多くの疑問に答えてくれる格好の読み物でもある。
今週、クレメンテは一度も宿題をやってこない。言い訳に途方もない話をするが、だれも信じない。とうとう、先生はクレメンテのお母さんと話すことにする……。この先生は、だれもがこんな先生がほしかったと思うような、センスがよくて辛抱強い、すばらしい先生だ。先生とクレメンテとお母さん、3人の主要登場人物が、生き生きと個性豊かに描かれている。
エバは12歳。好奇心旺盛で、あふれ出る疑問はとどまるところを知らない。ちょっとおかしな物知り発明家、ライと知り合ったことで、すべてが見えている通りとは限らないし、いつでも答えがもっとも重要というわけではないと気づく。
クリスティナ・ロサントスの絵による、小さな子ども向けシリーズ¡Adelante!(前へ!)の6冊目。アニータはやさしくて楽しい女の子、だけど大きな欠点がある。ウソばかりつくのだ! ほんとのことをいうとまずいとき、アニータはごまかそうとウソをついてしまう。こうして次々ウソをつくうち、ある日「ほんとのこと」にそっぽを向かれてしまった。今日だけは、どうしてもほんとのことが必要なのに。だけど、だいじょうぶ。正直になるのに、手遅れということはないからね!
ヴァルター・ベンヤミンが、1940年9月26日、国境の村ポルボウで自殺する前の最後の24時間を語った小説。