シグルズ・マットはバルセロナに帰って来た。この地を去ってから30年の月日が流れていた。当時は未確認動物学に入れ込んでいて、同級生のベレールやシェーグレンと一緒に超常現象の謎を探ろうとやっきになったり、公式の科学の教えに反する危険な動物や存在しない動物を追いかけたりしていた。師と仰ぐ人たちがそうしていたように、普通の科学を「公式の科学」と呼んで軽蔑していた。しかし2007年も終わろうとする今、疲れ切った負け犬のシグルズはピレネー山中の小さな村ボルに向かった。官僚たちの間で知られる古い温泉、ブルトゥロの療養所でしばらく過ごそうと思っていたのだ。持ち物の中には、ハンブルグに送られてきたベレールの遺書と、同封された「コロンブキルを追って」と題された奇妙な本の一部とおぼしきものが入っていた。その本の内容や意味を知るには、全編をそろえなければならなかった。