Editorial Anagrama
アナグラマ‧エディトリアル
出版社
文芸と視聴覚ソフトの制作、その販促活動と国内外の流通経路の開拓を行う会社。
いつも夏を過ごす小さな村へトマスが家族と一緒に行ったとき、青年期特有の彼の緊張感は後戻りできないところに達していた。突然、ひとつながりになってさまざまなことが起こる。性と暴力への目覚め、死、違反… トマスは知性が行動におきざりにされてしまっているのを閃光のように悟るが、勢いにさからえず、とうとう自分で自分を許せない行為をするにいたる。そしてその時、自分を裁き、許してくれる唯一の人の前に座らなければならないと感じるのだった。 暴力的でどっちつかずで無防備な若い年代を巧みに描いた、価値ある小説である。
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文学
8月、10月
Agosto, octubre
アンドレス‧バルバ
Andrés Barba
Editorial Anagrama
ビーチが安らぎの場所だった時代があった。究極の観光の時代にあって旅行者は別のスリルを求めている。ロック・グループ「ロス・エストラディタブレス」の元メンバー、マリオ・ムリェールは、カリブ海に妄想めいた可能性を見いだす。「恐怖の悦楽」だ。 彼は巨大なサンゴ礁の海岸に、コントロールした危険を提供するリゾート「ラ・ピラミデ」を建設する。だがやがて、ひとりのダイバーがアクアリウムの水槽の前で死んでいるのが見つかる。 ムリェールは宿泊客の性格を知っている。毒グモを育てている者、ロシアン・ルーレットに興じる者、マヤの生贄儀式を現代に復活させたがっている者。そして岩礁では、きゃしゃな魚が尖った岩の間を泳ぐ。 人生に強烈な刺激を求めた結果、生じるダメージについての考察。読者を夢中にさせるこの小説で、フアン・ビジョーロは新しいエコロジーを描く。気候変動がホテルを空っぽにするが、資金洗浄が幻のエンポリウム(交易の中心地)としてホテルを生まれ変わらせる。 しかし、Arrecife(岩礁)は、友情と愛と解放の物語でもある。
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文学
サンゴ礁
Arrecife
フアン‧ビジョロ
Juan Villoro
Editorial Anagrama
まずこの小説は実在の人物が出発点だ。世界で最も強大な権力を持った男のひとりで、ニューヨークの高級ホテルの1室においてホテル従業員の黒人移民女性を暴行したと訴えられて、慌てて帰国の便に乗り込んでいたところを逮捕され、世界中のニュースや討論や巷の噂をにぎわせた男だ。著者は、そこに端を発し、物語を再現するだけにとどまらず、想像力と叙述力の豊かな才能を発揮して、文学が持つ変化球でその物語に取り組む。表現方法も内容も圧倒的に過激な試みのなかで、この実在の人物がDK、偉大な神Kに変身する。そして、このKarnaval(カーニバル、cではなくkで綴る)は、カーニバルの仮面を通して、現代社会の行き過ぎ、罪、悪を読者に語りかける。
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文学
カーニバル
Karnaval
フアン‧フランシスコ‧フェレー
Juan Francisco Ferré
Editorial Anagrama
女神と牝牛と初恋が交錯する物語。北部の街でのひと夏と、性の発見についてのリアリスティックですばらしい物語。青年ルディ・リベロは父親が予防拘禁されているので、この夏、指図する者がおらず自由を謳歌している。彼の父は政治活動がきっかけで告発されただけでなく、女性関係もややこしい。そして息子であるルディも似たような蜘蛛の巣にからめとられていく。夏の間に、ルディは大人への一歩を踏み出す。けだるい雰囲気の美しい女が、先の見えない、だが甘美な愛への未知の旅にルディを導く。物語の始まりは古典的な色合いを帯びている。ルディの後見人である叔父が、べスペロ山の山麓でギリシャ語の授業に出席するようルディに強要する。その山頂で、ルディは往年のボクサーで今は修道士になっている男から教えを受ける。
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文学
寒さが心に届く時
Cuando el frío llegue al corazón
マニュエル‧グティエレス‧アラゴン
Manuel Gutiérrez Aragón
Editorial Anagrama
物語はオルバの貯水池で死体が発見されるところから始まる。主人公エステバンは、経営する工務店をたたんで、従業員を路頭に迷わせることになる。病気で末期の父親の看病をしながら、エステバンは、破産の原因を探す。彼はその犠牲者であり首切りの執行人という2役を背負っている。そして私たちはその瓦礫の中に、ひとつの社会、ひとつの世界、ひとつの時代を支配して来た価値観を見つける。福祉とその裏側、強欲と全て瓦礫と化してしまった偽りのプロジェクトの数々。エステバンの人生が映る鏡、ある意味特徴のない男。敗れた夢と失われた幻想をそのまま映している。みんなががつがつしていた。一握りの人たちのこの饗宴では、愛や家族、友情、社会規範もまたメニューの一部だった。
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文学
岸辺にて
En la orilla
ラフ<エル‧チルベス
Rafael Chirbes
Editorial Anagrama
70年代のアルゼンチン。労働組合は過激左翼によって牛耳られている。ひとりの製鉄所幹部を乗せたヘリコプターが川に墜落し、彼は死亡する。現金が詰まった彼のアタッシュケースが跡形もなく消える。彼の死と現金の行方に関する憶測が飛び交う。組合の代表と交渉? 彼らを買収? 大勢の死者を出すことにつながる不法な鎮圧のための資金? 物語は暗いエピソードを軸に展開し、そのドラマの核はコスタ・ガヴラス(映画監督)風に使われ、家族をめぐるこの小説においてお金の役割を見直すこととなる。語り手の父親はポーカーやカジノで金を「作り」、水を得た魚のように金融投機の世界を奔走する。彼の母親は相続したわずかな財産を贅沢な生活と別荘に浪費する。際限なく増える出費、それを支払うのは彼だ。
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