スペイン新刊書籍 〈2023〉

国際著作権のエージェントであるバルバラは、仕事で行き詰まり、パリに逃げた。落ち着き先は、特別なつながりのある祖母マルゴーの家。大雪の降った2008年のある朝、バルバラは祖母の家の赤いソファーで眠る、見知らぬ若者と出会う。人を一度も撮ったことがないという謎めいたカメラマンの彼は、バルバラが思いがけない調べ物をするのに手を貸すこととなる。ふたりは、第二次世界大戦中のドイツによる占領を生き延びた女性、祖母マルゴーの秘密を洗いだしていく。恐怖と美しさの間の戦いをめぐる小説。

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文学

NEW

3月32日

32 de març

シャビエル‧ボッシュ

Xavier Bosch
Donegal Magnalia S.L. (Antonia Kerrigan Agencia Literaria)

846年、ローマ帝国の首都であるローマの街は廃墟と化し、なかば打ち棄てられていた。それでもローマは永遠の都で、教皇が統治し、ペテロ、パウロなど十二使徒の亡骸が限りない財宝に囲まれて眠っていた。カトリック教会はすばらしい財宝を隠している。それゆえ海のかなたのイスラムの海賊たちがローマ略奪を企てる。一方、地中海じゅうで陰謀や戦争の噂がささやかれている。共通する唯一の目的は、繁栄し存続することだ。だれもがそんなふうに、よくも悪くも生きている。ローマ教皇からビザンチンの踊り子、バイキングの統領、あるいは誰もが手にいれたがっている秘密、すなわちギリシャの火の公式を、最も高い値をつけた買い手に売ろうとしている錬金術師まで。イスラム教徒によるローマ略奪という、中世キリスト教における最もドラマチックな事件を描いた小説。

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文学

NEW

火と塩の下で

Bajo el fuego y la sal

ホセ‧ソト‧チカ

José Soto Chica
EDHASA - Editora y Distribuidora Hispano Americana

信心深い娼婦、信仰心のない修道士、脚の悪いインディオ、高潔なならずもの。母は娼婦、父はイギリス人。空腹を追い払うための唯一の手段である苗字もない。それでもカマチョは高潔さという美点だけを手に、糊口をしのごうと奮闘するが、すべてはついえる。あとは絞首刑だ。信心深い娼婦、口をきかないインディオ、信仰心のない修道士、高潔なならずものが、インディアス艦隊の史上最大の荷を狙っている。一方、大洋の反対側、太陽の沈まない帝国ヌエバ・エスパーニャの、熱帯雨が夢を潰すユカタン半島にいるバルバネラ号の船倉は、その当時非常に珍重された染料である商材「アカミノキ」が満載されていった。一方、死神は債務を徴収しようとしていた。

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文学

NEW

バルバネラ

Balvanera

フランシスコ‧ナルラ

Francisco Narla
Agencia Literaria Albardonedo

ゴシック小説と新しいマジックジリアリズムにおいて確立した動向へのスペインの答えである。ライラ・マルティネスはスペインの片田舎を舞台とするこの衝撃的なデビュー作で、イベリア半島とカトリックの民間伝承を利用し、ブラックユーモアとロルカ的回想とともに、隣人たちから拒絶され恐れられた一家の唯一の生き残りである祖母と孫娘の波瀾万丈の復讐劇を描く。村の地主の一人息子が失踪したとき、彼女たちふたりに犯人の容疑がかけられる。ふたり目の失踪者である地主の息子とはたまたまかかわっただけだという彼女たちの言葉を、誰も信じない。ざらついた豊かな声で、祖母と孫娘が交互に、家族のこと、家のこと、天使や聖人との取引のことを語り、火を囲んで夜に語られる怖い話のように私たちをとりこにする。復讐と階級闘争の物語。

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文学

NEW

木喰い虫

Carcoma

ライラ‧マルティネス

Layla Martínez
Casanovas & Lynch Literary Agency

この小説は、現代のバルセロナに住む若い女性の物語である。一人称で、ジョイセンの「ある日の出来事」風に語られる。30歳を目前にした世代の矛盾に直面し、同年代の両親が経験した現実とはまったく異なる現実を生きていることに気づいた少女の波瀾万丈を描いている。語り手は不安定な仕事に就いており、結局は解雇される。ポストモダンのリバタリアンの論理のレンズを通して見れば、失敗に終わる恋愛に巻き込まれ、親しい友人関係が揺らぎ、これらすべてによって、彼女は平衡感覚を見出すのが難しいことに気づくだろう。

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文学

NEW

優待消費

Consum preferent

アンドレア‧ヘノバルト

Andrea Genovart
Editorial Anagrama

大自然、独自のルールに従う女性たちだけが住む1軒の家、見知らぬ女。そこへ最近やってきたのは、車がガス欠になり、扉の閉ざされた家しかないでこぼこ道に迷いこんだコロ・マエだ。都会育ちの彼女は、何もかもに見放された状況で何もわからないまま、俗世から離れて独自のルールのもとで数名の女性たちが暮らす家、ベタニアにたどりつく。その家の地下で寝泊まりしているグロリアに、泊まっていくよう強引に誘われ、ほかの女性たちにもそれとなく勧められたのと、くたびれ果ててどうすることもできなかったことが手伝って、コロ・マエは、女性たちが支配する、その野蛮な場所から出ることができなくなる。女性たちが彼女をひきとめているのか。それとも、無能感に彼女が屈したのか。惨事の領域へ、原初的驚きを伴う警戒と詩的恐怖の状況へと読者をひきずりこむ感覚的小説。

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文学

NEW

野獣と鳥類の

De bestias y aves

ピラール‧アドン

Pilar Adón
Galaxia Gutenberg

表層の下に隠れたものを、キャサリン・マンスフィールドは誰より巧みに描いてきた。彼女の時代の女性たちの行動原理についての深い理解により、女性の登場人物たちのみごとな立体性を発見した。そこで、美と驚愕、卑しいものと崇高なものを組み合わせ、人生の複数の次元を構成する、微細な矛盾を見事に描きだした。本書は、主人公たちの人生にしかけられた火山のような感情、常に崖っぷちにある日常生活に入りこんで心を揺るがす感情を浮き彫りにした物語を集めた短編集である。『ジェーン・エア』や、エミリー・ブロンテ、シルヴィア・プラスなどの古典作品のイラストレーターとして定評のあるサラ・モランテが、マンスフィールドの文学的空想を完璧に解釈している。

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文学

NEW

近代の魂とその他の短編

El alma moderna y otros cuentos

キャサリン‧マンスフィールド

Katherine Mansfield
Libros del Zorro Rojo / Albur Producciones Editoriales, S.L.

愛と死は、兄弟であるかのように似通った響きを持ち、かけ離れているようだが共存している。本書は、バレンシア及びガジネラの谷で繰り広げられる愛と友情、死と失恋の物語である。多くの歴史を持ちながら人口の少ないこの谷は、さびれてすっかり荒廃している。中学教師のジュアンと、段々畑で耕作をする心理学者のサラはこの谷に住む。またカルロスという人物もそこにやってくる。彼は編集者で、養子の息子のドラッグや犯罪の問題からくる苦痛から逃れたいという事情を抱えている。谷の暮らしと同様、ほとんど消えかけているガジネラ川をたどって3人が共に歩く道に、過去と、逃れることができないすべてのことが流れこむ。

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文学

NEW

下の道

El carrer de baix

ビセント‧フロール

Vicent Flor
GRUP 62, S.L.U.

1938年5月22日パンプローナ。「仲間たちよ、外に出ろ。俺たちは自由だ!」力強い囚人の声が刑務所の中庭に響いた。ホアキンは間髪をいれずに立ち上がり、ともに牢の床に座っていたトマスの体をゆさぶった。「行こう!」呼びかけて、セーターをひっぱり、立たせる。ふたりは第二旅団に属していた。彼らの牢は、サンクリストバル要塞の2階にあった。25平米あるかないかのその空間の壁にほとんど1日囲まれていると、精神がおかしくなりそうになる。誰かが牢屋の扉を開くと、囚人たちは階段に殺到して駆けおりた。ふたりははぐれないようにしながらほかの囚人たちに紛れ、「フランスへ! フランスへ!」と叫ぶ、誰のものかわからない声に導かれて、中庭をつっきって刑務所の入り口に向かって駆けた。

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文学

NEW

きみの名前の長い夢

El largo sueño de tu nombre

アマイア‧オロリス

Amaia Oloriz
Editorial Txalaparta

「僕たちは自分の人生を額に刻印されているのか? 生まれたときから? 僕の場合、知るのは簡単だ。サグラダ・ファミリアに行こう。見つけたんだ(…)。どこに行くかって? 生誕のファサードさ。左上にエジプト逃避の彫刻がある。聖母マリアが抱いている赤ん坊が見えるだろう。あれが僕だ」父を知らない少年ボルデガスは、自分とサグラダ・ファミリアとの関係をそのように語る。子どもの頃、ライバルグループとの抗争はすべて石の投げ合いで解決した。数十年たって教会は頂点に達し、彼らは大人になった。そして、仲間同士の争いは、内戦での銃撃戦にとってかわられた。

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文学

NEW

貧者の寺院

El temple dels pobres

アルフレド‧ボスク

Alfred Bosch
Columna Edicions, S.A.U.

マテオ・サレルノはサーカス芸人一族の最後のひとり。サーカスの舞台、そして父親から離れることを決意したあと、代々続いてきたサーカス一家の裏に隠された物語を本にまとめて借金を清算しようとする。自分自身の思い出、芸人たちへのインタビュー、そして長年かけて集めてきたあらゆる資料(手紙、パンフレット、映像、記念品、スピーチ、写真…)から、一座の生活の様々な瞬間、テントの中と外で絡み合う様々な物語がひとつのモザイク模様のように浮かび上がり、この群像小説の真の主役、老舗サーカス団サレルノの衰退と崩壊が様々な声で語られる。マテオは公演のために読者に最前列の席を用意してくれた。テンポのよい自然な散文にひたっているうちに、このサーカス一族の非常に人間らしい面に引き込まれていく。ショーを楽しんでもらいたい。

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文学

NEW

空中ブランコ乗りのめまい

El vértigo del trapecista

フアン‧ラモン‧アスアル=ロメロ

Juan Ramón Azuar Romero
Drácena Ediciones

不動産会社で熱心に働く女性が空き家になっている物件の内覧準備をしていると、まばたきをしない7歳の少年と出会う。ガラス瓶の中の虫のように昔からこの場所に捕らわれている少年は、女性に何かを期待しているがそれを言葉にすることさえできず、ふたりの間に不気味で完全なる相互依存関係を作り上げてしまう。この「幽霊の出てこない幽霊小説」で、見事な腕前によって人間の親密さを分析してみせたバルバ。幽霊小説のスタイルに寄せつつ、自身の写実主義的な文体にさらに磨きをかけている。時間の重なりと交差に満ちたこの小説は、そのテクニックの正確さから、ヘンリー・ジェイムズやアドルフォ・ビオイ=カサーレスが書いた幻想小説の名作と通じるところがあるが、リンドクヴィストやシャーリイ・ジャクスンの美学と同様、叙情性、繊細さ、残酷さに富んだ現代的な作品と言える。

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文学

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前世の最後の日

El último día de la vida anterior

アンドレス‧バルバ

Andrés Barba
Casanovas & Lynch Literary Agency

国際著作権のエージェントであるバルバラは、仕事で行き詰まり、パリに逃げた。落ち着き先は、特別なつながりのある祖母マルゴーの家。大雪の降った2008年のある朝、バルバラは祖母の家の赤いソファーで眠る、見知らぬ若者と出会う。人を一度も撮ったことがないという謎めいたカメラマンの彼は、バルバラが思いがけない調べ物をするのに手を貸すこととなる。ふたりは、第二次世界大戦中のドイツによる占領を生き延びた女性、祖母マルゴーの秘密を洗いだしていく。恐怖と美しさの間の戦いをめぐる小説。

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3月32日

32 de març

シャビエル‧ボッシュ

Xavier Bosch
Donegal Magnalia S.L. (Antonia Kerrigan Agencia Literaria)

846年、ローマ帝国の首都であるローマの街は廃墟と化し、なかば打ち棄てられていた。それでもローマは永遠の都で、教皇が統治し、ペテロ、パウロなど十二使徒の亡骸が限りない財宝に囲まれて眠っていた。カトリック教会はすばらしい財宝を隠している。それゆえ海のかなたのイスラムの海賊たちがローマ略奪を企てる。一方、地中海じゅうで陰謀や戦争の噂がささやかれている。共通する唯一の目的は、繁栄し存続することだ。だれもがそんなふうに、よくも悪くも生きている。ローマ教皇からビザンチンの踊り子、バイキングの統領、あるいは誰もが手にいれたがっている秘密、すなわちギリシャの火の公式を、最も高い値をつけた買い手に売ろうとしている錬金術師まで。イスラム教徒によるローマ略奪という、中世キリスト教における最もドラマチックな事件を描いた小説。

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火と塩の下で

Bajo el fuego y la sal

ホセ‧ソト‧チカ

José Soto Chica
EDHASA - Editora y Distribuidora Hispano Americana

信心深い娼婦、信仰心のない修道士、脚の悪いインディオ、高潔なならずもの。母は娼婦、父はイギリス人。空腹を追い払うための唯一の手段である苗字もない。それでもカマチョは高潔さという美点だけを手に、糊口をしのごうと奮闘するが、すべてはついえる。あとは絞首刑だ。信心深い娼婦、口をきかないインディオ、信仰心のない修道士、高潔なならずものが、インディアス艦隊の史上最大の荷を狙っている。一方、大洋の反対側、太陽の沈まない帝国ヌエバ・エスパーニャの、熱帯雨が夢を潰すユカタン半島にいるバルバネラ号の船倉は、その当時非常に珍重された染料である商材「アカミノキ」が満載されていった。一方、死神は債務を徴収しようとしていた。

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バルバネラ

Balvanera

フランシスコ‧ナルラ

Francisco Narla
Agencia Literaria Albardonedo

ゴシック小説と新しいマジックジリアリズムにおいて確立した動向へのスペインの答えである。ライラ・マルティネスはスペインの片田舎を舞台とするこの衝撃的なデビュー作で、イベリア半島とカトリックの民間伝承を利用し、ブラックユーモアとロルカ的回想とともに、隣人たちから拒絶され恐れられた一家の唯一の生き残りである祖母と孫娘の波瀾万丈の復讐劇を描く。村の地主の一人息子が失踪したとき、彼女たちふたりに犯人の容疑がかけられる。ふたり目の失踪者である地主の息子とはたまたまかかわっただけだという彼女たちの言葉を、誰も信じない。ざらついた豊かな声で、祖母と孫娘が交互に、家族のこと、家のこと、天使や聖人との取引のことを語り、火を囲んで夜に語られる怖い話のように私たちをとりこにする。復讐と階級闘争の物語。

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木喰い虫

Carcoma

ライラ‧マルティネス

Layla Martínez
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この小説は、現代のバルセロナに住む若い女性の物語である。一人称で、ジョイセンの「ある日の出来事」風に語られる。30歳を目前にした世代の矛盾に直面し、同年代の両親が経験した現実とはまったく異なる現実を生きていることに気づいた少女の波瀾万丈を描いている。語り手は不安定な仕事に就いており、結局は解雇される。ポストモダンのリバタリアンの論理のレンズを通して見れば、失敗に終わる恋愛に巻き込まれ、親しい友人関係が揺らぎ、これらすべてによって、彼女は平衡感覚を見出すのが難しいことに気づくだろう。

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Consum preferent

アンドレア‧ヘノバルト

Andrea Genovart
Editorial Anagrama

大自然、独自のルールに従う女性たちだけが住む1軒の家、見知らぬ女。そこへ最近やってきたのは、車がガス欠になり、扉の閉ざされた家しかないでこぼこ道に迷いこんだコロ・マエだ。都会育ちの彼女は、何もかもに見放された状況で何もわからないまま、俗世から離れて独自のルールのもとで数名の女性たちが暮らす家、ベタニアにたどりつく。その家の地下で寝泊まりしているグロリアに、泊まっていくよう強引に誘われ、ほかの女性たちにもそれとなく勧められたのと、くたびれ果ててどうすることもできなかったことが手伝って、コロ・マエは、女性たちが支配する、その野蛮な場所から出ることができなくなる。女性たちが彼女をひきとめているのか。それとも、無能感に彼女が屈したのか。惨事の領域へ、原初的驚きを伴う警戒と詩的恐怖の状況へと読者をひきずりこむ感覚的小説。

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野獣と鳥類の

De bestias y aves

ピラール‧アドン

Pilar Adón
Galaxia Gutenberg

表層の下に隠れたものを、キャサリン・マンスフィールドは誰より巧みに描いてきた。彼女の時代の女性たちの行動原理についての深い理解により、女性の登場人物たちのみごとな立体性を発見した。そこで、美と驚愕、卑しいものと崇高なものを組み合わせ、人生の複数の次元を構成する、微細な矛盾を見事に描きだした。本書は、主人公たちの人生にしかけられた火山のような感情、常に崖っぷちにある日常生活に入りこんで心を揺るがす感情を浮き彫りにした物語を集めた短編集である。『ジェーン・エア』や、エミリー・ブロンテ、シルヴィア・プラスなどの古典作品のイラストレーターとして定評のあるサラ・モランテが、マンスフィールドの文学的空想を完璧に解釈している。

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近代の魂とその他の短編

El alma moderna y otros cuentos

キャサリン‧マンスフィールド

Katherine Mansfield
Libros del Zorro Rojo / Albur Producciones Editoriales, S.L.

愛と死は、兄弟であるかのように似通った響きを持ち、かけ離れているようだが共存している。本書は、バレンシア及びガジネラの谷で繰り広げられる愛と友情、死と失恋の物語である。多くの歴史を持ちながら人口の少ないこの谷は、さびれてすっかり荒廃している。中学教師のジュアンと、段々畑で耕作をする心理学者のサラはこの谷に住む。またカルロスという人物もそこにやってくる。彼は編集者で、養子の息子のドラッグや犯罪の問題からくる苦痛から逃れたいという事情を抱えている。谷の暮らしと同様、ほとんど消えかけているガジネラ川をたどって3人が共に歩く道に、過去と、逃れることができないすべてのことが流れこむ。

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下の道

El carrer de baix

ビセント‧フロール

Vicent Flor
GRUP 62, S.L.U.

1938年5月22日パンプローナ。「仲間たちよ、外に出ろ。俺たちは自由だ!」力強い囚人の声が刑務所の中庭に響いた。ホアキンは間髪をいれずに立ち上がり、ともに牢の床に座っていたトマスの体をゆさぶった。「行こう!」呼びかけて、セーターをひっぱり、立たせる。ふたりは第二旅団に属していた。彼らの牢は、サンクリストバル要塞の2階にあった。25平米あるかないかのその空間の壁にほとんど1日囲まれていると、精神がおかしくなりそうになる。誰かが牢屋の扉を開くと、囚人たちは階段に殺到して駆けおりた。ふたりははぐれないようにしながらほかの囚人たちに紛れ、「フランスへ! フランスへ!」と叫ぶ、誰のものかわからない声に導かれて、中庭をつっきって刑務所の入り口に向かって駆けた。

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きみの名前の長い夢

El largo sueño de tu nombre

アマイア‧オロリス

Amaia Oloriz
Editorial Txalaparta

「僕たちは自分の人生を額に刻印されているのか? 生まれたときから? 僕の場合、知るのは簡単だ。サグラダ・ファミリアに行こう。見つけたんだ(…)。どこに行くかって? 生誕のファサードさ。左上にエジプト逃避の彫刻がある。聖母マリアが抱いている赤ん坊が見えるだろう。あれが僕だ」父を知らない少年ボルデガスは、自分とサグラダ・ファミリアとの関係をそのように語る。子どもの頃、ライバルグループとの抗争はすべて石の投げ合いで解決した。数十年たって教会は頂点に達し、彼らは大人になった。そして、仲間同士の争いは、内戦での銃撃戦にとってかわられた。

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貧者の寺院

El temple dels pobres

アルフレド‧ボスク

Alfred Bosch
Columna Edicions, S.A.U.

マテオ・サレルノはサーカス芸人一族の最後のひとり。サーカスの舞台、そして父親から離れることを決意したあと、代々続いてきたサーカス一家の裏に隠された物語を本にまとめて借金を清算しようとする。自分自身の思い出、芸人たちへのインタビュー、そして長年かけて集めてきたあらゆる資料(手紙、パンフレット、映像、記念品、スピーチ、写真…)から、一座の生活の様々な瞬間、テントの中と外で絡み合う様々な物語がひとつのモザイク模様のように浮かび上がり、この群像小説の真の主役、老舗サーカス団サレルノの衰退と崩壊が様々な声で語られる。マテオは公演のために読者に最前列の席を用意してくれた。テンポのよい自然な散文にひたっているうちに、このサーカス一族の非常に人間らしい面に引き込まれていく。ショーを楽しんでもらいたい。

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空中ブランコ乗りのめまい

El vértigo del trapecista

フアン‧ラモン‧アスアル=ロメロ

Juan Ramón Azuar Romero
Drácena Ediciones

不動産会社で熱心に働く女性が空き家になっている物件の内覧準備をしていると、まばたきをしない7歳の少年と出会う。ガラス瓶の中の虫のように昔からこの場所に捕らわれている少年は、女性に何かを期待しているがそれを言葉にすることさえできず、ふたりの間に不気味で完全なる相互依存関係を作り上げてしまう。この「幽霊の出てこない幽霊小説」で、見事な腕前によって人間の親密さを分析してみせたバルバ。幽霊小説のスタイルに寄せつつ、自身の写実主義的な文体にさらに磨きをかけている。時間の重なりと交差に満ちたこの小説は、そのテクニックの正確さから、ヘンリー・ジェイムズやアドルフォ・ビオイ=カサーレスが書いた幻想小説の名作と通じるところがあるが、リンドクヴィストやシャーリイ・ジャクスンの美学と同様、叙情性、繊細さ、残酷さに富んだ現代的な作品と言える。

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前世の最後の日

El último día de la vida anterior

アンドレス‧バルバ

Andrés Barba
Casanovas & Lynch Literary Agency

国際著作権のエージェントであるバルバラは、仕事で行き詰まり、パリに逃げた。落ち着き先は、特別なつながりのある祖母マルゴーの家。大雪の降った2008年のある朝、バルバラは祖母の家の赤いソファーで眠る、見知らぬ若者と出会う。人を一度も撮ったことがないという謎めいたカメラマンの彼は、バルバラが思いがけない調べ物をするのに手を貸すこととなる。ふたりは、第二次世界大戦中のドイツによる占領を生き延びた女性、祖母マルゴーの秘密を洗いだしていく。恐怖と美しさの間の戦いをめぐる小説。

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3月32日

32 de març

シャビエル‧ボッシュ

Xavier Bosch
Donegal Magnalia S.L. (Antonia Kerrigan Agencia Literaria)

846年、ローマ帝国の首都であるローマの街は廃墟と化し、なかば打ち棄てられていた。それでもローマは永遠の都で、教皇が統治し、ペテロ、パウロなど十二使徒の亡骸が限りない財宝に囲まれて眠っていた。カトリック教会はすばらしい財宝を隠している。それゆえ海のかなたのイスラムの海賊たちがローマ略奪を企てる。一方、地中海じゅうで陰謀や戦争の噂がささやかれている。共通する唯一の目的は、繁栄し存続することだ。だれもがそんなふうに、よくも悪くも生きている。ローマ教皇からビザンチンの踊り子、バイキングの統領、あるいは誰もが手にいれたがっている秘密、すなわちギリシャの火の公式を、最も高い値をつけた買い手に売ろうとしている錬金術師まで。イスラム教徒によるローマ略奪という、中世キリスト教における最もドラマチックな事件を描いた小説。

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火と塩の下で

Bajo el fuego y la sal

ホセ‧ソト‧チカ

José Soto Chica
EDHASA - Editora y Distribuidora Hispano Americana

信心深い娼婦、信仰心のない修道士、脚の悪いインディオ、高潔なならずもの。母は娼婦、父はイギリス人。空腹を追い払うための唯一の手段である苗字もない。それでもカマチョは高潔さという美点だけを手に、糊口をしのごうと奮闘するが、すべてはついえる。あとは絞首刑だ。信心深い娼婦、口をきかないインディオ、信仰心のない修道士、高潔なならずものが、インディアス艦隊の史上最大の荷を狙っている。一方、大洋の反対側、太陽の沈まない帝国ヌエバ・エスパーニャの、熱帯雨が夢を潰すユカタン半島にいるバルバネラ号の船倉は、その当時非常に珍重された染料である商材「アカミノキ」が満載されていった。一方、死神は債務を徴収しようとしていた。

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バルバネラ

Balvanera

フランシスコ‧ナルラ

Francisco Narla
Agencia Literaria Albardonedo

ゴシック小説と新しいマジックジリアリズムにおいて確立した動向へのスペインの答えである。ライラ・マルティネスはスペインの片田舎を舞台とするこの衝撃的なデビュー作で、イベリア半島とカトリックの民間伝承を利用し、ブラックユーモアとロルカ的回想とともに、隣人たちから拒絶され恐れられた一家の唯一の生き残りである祖母と孫娘の波瀾万丈の復讐劇を描く。村の地主の一人息子が失踪したとき、彼女たちふたりに犯人の容疑がかけられる。ふたり目の失踪者である地主の息子とはたまたまかかわっただけだという彼女たちの言葉を、誰も信じない。ざらついた豊かな声で、祖母と孫娘が交互に、家族のこと、家のこと、天使や聖人との取引のことを語り、火を囲んで夜に語られる怖い話のように私たちをとりこにする。復讐と階級闘争の物語。

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木喰い虫

Carcoma

ライラ‧マルティネス

Layla Martínez
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この小説は、現代のバルセロナに住む若い女性の物語である。一人称で、ジョイセンの「ある日の出来事」風に語られる。30歳を目前にした世代の矛盾に直面し、同年代の両親が経験した現実とはまったく異なる現実を生きていることに気づいた少女の波瀾万丈を描いている。語り手は不安定な仕事に就いており、結局は解雇される。ポストモダンのリバタリアンの論理のレンズを通して見れば、失敗に終わる恋愛に巻き込まれ、親しい友人関係が揺らぎ、これらすべてによって、彼女は平衡感覚を見出すのが難しいことに気づくだろう。

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Andrea Genovart
Editorial Anagrama

大自然、独自のルールに従う女性たちだけが住む1軒の家、見知らぬ女。そこへ最近やってきたのは、車がガス欠になり、扉の閉ざされた家しかないでこぼこ道に迷いこんだコロ・マエだ。都会育ちの彼女は、何もかもに見放された状況で何もわからないまま、俗世から離れて独自のルールのもとで数名の女性たちが暮らす家、ベタニアにたどりつく。その家の地下で寝泊まりしているグロリアに、泊まっていくよう強引に誘われ、ほかの女性たちにもそれとなく勧められたのと、くたびれ果ててどうすることもできなかったことが手伝って、コロ・マエは、女性たちが支配する、その野蛮な場所から出ることができなくなる。女性たちが彼女をひきとめているのか。それとも、無能感に彼女が屈したのか。惨事の領域へ、原初的驚きを伴う警戒と詩的恐怖の状況へと読者をひきずりこむ感覚的小説。

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野獣と鳥類の

De bestias y aves

ピラール‧アドン

Pilar Adón
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表層の下に隠れたものを、キャサリン・マンスフィールドは誰より巧みに描いてきた。彼女の時代の女性たちの行動原理についての深い理解により、女性の登場人物たちのみごとな立体性を発見した。そこで、美と驚愕、卑しいものと崇高なものを組み合わせ、人生の複数の次元を構成する、微細な矛盾を見事に描きだした。本書は、主人公たちの人生にしかけられた火山のような感情、常に崖っぷちにある日常生活に入りこんで心を揺るがす感情を浮き彫りにした物語を集めた短編集である。『ジェーン・エア』や、エミリー・ブロンテ、シルヴィア・プラスなどの古典作品のイラストレーターとして定評のあるサラ・モランテが、マンスフィールドの文学的空想を完璧に解釈している。

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近代の魂とその他の短編

El alma moderna y otros cuentos

キャサリン‧マンスフィールド

Katherine Mansfield
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愛と死は、兄弟であるかのように似通った響きを持ち、かけ離れているようだが共存している。本書は、バレンシア及びガジネラの谷で繰り広げられる愛と友情、死と失恋の物語である。多くの歴史を持ちながら人口の少ないこの谷は、さびれてすっかり荒廃している。中学教師のジュアンと、段々畑で耕作をする心理学者のサラはこの谷に住む。またカルロスという人物もそこにやってくる。彼は編集者で、養子の息子のドラッグや犯罪の問題からくる苦痛から逃れたいという事情を抱えている。谷の暮らしと同様、ほとんど消えかけているガジネラ川をたどって3人が共に歩く道に、過去と、逃れることができないすべてのことが流れこむ。

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下の道

El carrer de baix

ビセント‧フロール

Vicent Flor
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きみの名前の長い夢

El largo sueño de tu nombre

アマイア‧オロリス

Amaia Oloriz
Editorial Txalaparta

「僕たちは自分の人生を額に刻印されているのか? 生まれたときから? 僕の場合、知るのは簡単だ。サグラダ・ファミリアに行こう。見つけたんだ(…)。どこに行くかって? 生誕のファサードさ。左上にエジプト逃避の彫刻がある。聖母マリアが抱いている赤ん坊が見えるだろう。あれが僕だ」父を知らない少年ボルデガスは、自分とサグラダ・ファミリアとの関係をそのように語る。子どもの頃、ライバルグループとの抗争はすべて石の投げ合いで解決した。数十年たって教会は頂点に達し、彼らは大人になった。そして、仲間同士の争いは、内戦での銃撃戦にとってかわられた。

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貧者の寺院

El temple dels pobres

アルフレド‧ボスク

Alfred Bosch
Columna Edicions, S.A.U.

マテオ・サレルノはサーカス芸人一族の最後のひとり。サーカスの舞台、そして父親から離れることを決意したあと、代々続いてきたサーカス一家の裏に隠された物語を本にまとめて借金を清算しようとする。自分自身の思い出、芸人たちへのインタビュー、そして長年かけて集めてきたあらゆる資料(手紙、パンフレット、映像、記念品、スピーチ、写真…)から、一座の生活の様々な瞬間、テントの中と外で絡み合う様々な物語がひとつのモザイク模様のように浮かび上がり、この群像小説の真の主役、老舗サーカス団サレルノの衰退と崩壊が様々な声で語られる。マテオは公演のために読者に最前列の席を用意してくれた。テンポのよい自然な散文にひたっているうちに、このサーカス一族の非常に人間らしい面に引き込まれていく。ショーを楽しんでもらいたい。

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文学

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空中ブランコ乗りのめまい

El vértigo del trapecista

フアン‧ラモン‧アスアル=ロメロ

Juan Ramón Azuar Romero
Drácena Ediciones

不動産会社で熱心に働く女性が空き家になっている物件の内覧準備をしていると、まばたきをしない7歳の少年と出会う。ガラス瓶の中の虫のように昔からこの場所に捕らわれている少年は、女性に何かを期待しているがそれを言葉にすることさえできず、ふたりの間に不気味で完全なる相互依存関係を作り上げてしまう。この「幽霊の出てこない幽霊小説」で、見事な腕前によって人間の親密さを分析してみせたバルバ。幽霊小説のスタイルに寄せつつ、自身の写実主義的な文体にさらに磨きをかけている。時間の重なりと交差に満ちたこの小説は、そのテクニックの正確さから、ヘンリー・ジェイムズやアドルフォ・ビオイ=カサーレスが書いた幻想小説の名作と通じるところがあるが、リンドクヴィストやシャーリイ・ジャクスンの美学と同様、叙情性、繊細さ、残酷さに富んだ現代的な作品と言える。

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前世の最後の日

El último día de la vida anterior

アンドレス‧バルバ

Andrés Barba
Casanovas & Lynch Literary Agency