まずこの小説は実在の人物が出発点だ。世界で最も強大な権力を持った男のひとりで、ニューヨークの高級ホテルの1室においてホテル従業員の黒人移民女性を暴行したと訴えられて、慌てて帰国の便に乗り込んでいたところを逮捕され、世界中のニュースや討論や巷の噂をにぎわせた男だ。著者は、そこに端を発し、物語を再現するだけにとどまらず、想像力と叙述力の豊かな才能を発揮して、文学が持つ変化球でその物語に取り組む。表現方法も内容も圧倒的に過激な試みのなかで、この実在の人物がDK、偉大な神Kに変身する。
2011年夏、ポル・バルサックは、抗議デモ中の妨害行為により彼を逮捕しにきた警察からのがれようと、自宅のベランダからぶらさがって外に出る。しかし、不思議な物理現象が起き、ポルの身体は異次元へと運ばれる。城のある美しい街、現実のものとは思えない動物たち、密林のジャングルがある幻想的な世界だが、奇妙なことにポルは親しみをおぼえる。その世界で生きのびるためには、ポルは伝説の男カルバダンになりすまし、天災に脅かされている住人を救わなければならなかった。
子どもと青少年に向けて環境保護のメッセージを伝えるファンタジー小説。著者が言うには、環境悪化は人々の生活様式の変化だけでなく、自然への無関心の結果引き起こされたものである。ココは自分は「だらしなくて忘れっぽくて、かなりぼんやりしている」と考えている未来世界の女の子。大規模な環境破壊により荒れ果てた、不毛の地に住んでいる。この悲劇は人類の愚かさゆえに起きた。ココにはサルに似たしっぽがあって、おかげで木にうまくよじ登れる。
偶然のきっかけでグラフィックデザイナーになり、フリーランスとして仕事をするしかなかったアンナは内省的な女性で、何事につけ計算しバランスをとり、メモリをゼロにあわせて前に進むことを繰り返している。パートナーのマネル又はネル又はネレは近くて遠い存在で、必要性と怒りを彼女は胸にしまいこんでいる。あらゆるものがゆらいでいる状況の中では、物事が突然がらりと変わることがあるが、現在のバルセロナも例外ではない。経済危機の閉塞感、想定外の店子、無理強いする家族、せまられる重大な変化。
全てがいつもの通りであるかのように暮らし、愛そうとする友だちグループの異常な日々を描いた作品。リュイス・カルボは、変わった愛の物語を書き上げた。その中で愛は、非常に特殊な叙事詩を求め、誰もの心の片隅に隠れている。しかしそれだけでなく、サバイバルも語られる。変化を、闇を、流行のバールやオブセッションを、どう生き延びていくのか。つまり日々を生き延びることについて語っている
このサイレンスコミックはアングレーム「24時間漫画コンテスト」で制作したもの。コンテストの規則は、美術館が舞台であり24ページで24時間以内で仕上げられた作品であること。 僕はたしか19時間で仕上げました。
音楽とウィットとリリシズムに導かれ、夢のような雰囲気をかもしだす10の短編。クラリッセ・リスペクトールの短編に似た感覚を読者に与える。アルムデナ・サンチェスの初めての短編集である本書には、数学と人生の音楽が残響を放つ。
アウダルド・カルボネルは科学者チャールズ・ダーウィンの船、ビーグル号に乗ってすばらしい旅をする。その航海でふたりは、人間が今のような姿になった理由や、ヒトという種の進化の過程に刻まれた危険やできごと、火の発明から遺伝子工学までを説明してくれる冒険を経験することになる。エピソード満載のわくわくする進化史散歩だ。
アディラネは、祖母ルットの内戦時の幼い頃の記憶を記録するというたよりない理由を言い訳にして、バスク北部の海辺の村にある実家に戻る。一言の説明もなしに、夫と5歳になる娘を残し、自分自身の過去から新たな出発点を見つけるつもりだった。故郷では、祖母と共に、何年も前から言葉を交わしていない母アドリアナが暮らしている。3つの違った歴史的、政治的背景のもと、常にはりつめた土地で人を育て世話していくのは何を意味するのか。