音楽とウィットとリリシズムに導かれ、夢のような雰囲気をかもしだす10の短編。クラリッセ・リスペクトールの短編に似た感覚を読者に与える。アルムデナ・サンチェスの初めての短編集である本書には、数学と人生の音楽が残響を放つ。後ろの座席にふたりの息子を乗せて、ふらふらと脇道をドライブする母親、最後の夢をかなえようとロープウェーに乗ったふたりの老人、最後には宇宙飛行士となった失業中の勤勉な女子学生、けんかをし、楽器の弾き方をおぼえ、スイマーに恋をする大勢の若い娘たちなどが、この短編集の魅惑的で心あたたまるページを駆け抜ける。大人の青年期あるいは若々しい熟年というまぼろしがあるならば、アルムデナ・サンチェスの物語はすべてをかけてそのような夢想をよびおこそうとする。