日本市場向けに専門家が選んだスペインの新刊書籍をお届けします。
今回は以下の専門家の方々に選んでいただきました。それぞれのお名前をクリックすると書籍紹介ビデオをご覧いただけます。:
野谷文昭(選考委員長:東京大学名誉教授・立教大学名誉教授・名古屋外国語大学名誉教授)(以下あいうえお順/敬称略) 窪木竜也(早川書房 編集者)/斎藤文子(東京大学大学院総合文化研究科教授)/幅允孝(株式会社BACH代表)/細江幸世 (フリー編集者、白百合女子大学非常勤講師)
各書籍のレポートを担当したのは以下の方々です(あいうえお順/敬称略、最終選考で選ばれなかった書籍のレポート作成者も含みます)
井原美穂/今木照美/宇野和美/笠原未来歩/小机菜穂/佐藤晶子/嶋田真美/白川貴子/高木菜々/轟 志津香/長神末央子/中山 映/平野麻紗/松枝 愛/宮崎真紀/村岡直子/矢野真弓/横田佐知子/吉田 恵/和田優子
人生において家族やお金の重みとはどれほどのものだろうか?違う場所、時代に、違う身体で生まれてくれば、何か違っただろうか? この小説にはふたりの女性が登場する。ひとりはマリア。彼女は60年代後期にマドリードで働くためにそれまでの人生を捨てた。もうひとりの女性アリシアは、30年以上も後にマリアと同じ道を通る。『Las maravillas (素晴らしいこと)』はお金、そしてお金がないことにまつわる小説で、所持していないお金がどのようして人を定義づけていくのかを描く。
「家の外に出ると、ぼくには何もかもがむずかしくなる。むずむずした感じがやまなくて、一歩一歩が容易ではない」。人とコミュニケーションをとることは、見かけほど簡単ではなく、それには我慢強さや努力や勇気が必要だ。この本の主人公はそんな問題をかかえていて、パン屋のおじさんや、近所のアナさんやアントニアさんにあいさつしたいのに、しようとすると胸がドキドキして、手が汗ばんで、ほほえみしか出てこなくなる。
深い愛情に満ちた父娘を描くこの美しい物語は、たとえ目が見えなくても見えるものがあることを教えてくれる。暗闇に生きようとも視野が欠けていようとも充実した人生を送ることは可能だ。例えばこの本に登場する父娘は歩いて通う学校までの道のりを冒険の旅と捉えて楽しむ。町は勇猛な動物と魅惑的な音でいっぱいのジャングルに変貌するのだ。もっと住みやすく美しい世界を得るために互いを必要とする少女と父親、そのふたりの間にある優しさと互いを称え合う気持ちが伝わる作品。
木の葉が無くなってしまった暗い夜の森を捨て、旅に出る動物たちの様子を力強いタッチの絵だけで雄弁に物語る。一度きりの大移動は死と希望が共存する不安に満ちた長い旅。様々な脅威に立ち向かいながら国境を越えて進む。ありのままの姿を描いたイッサ・ワタナベの絵は、難民キャンプの日常やメディアでよく取り上げられる移民の映像のような見慣れた光景からも読者の心を揺り動かし、反省、共感、連帯感を生み出す。移動という状況を通して歴史的な決断の必要性を読者に気づかせてくれる本。
「年を取るごとにおじいちゃんが衰えてるとおばあちゃんが言うけど、何のことかちっともわからない。学校で石は時の流れによって浸食されすり減ると習った。でもおじいちゃんは石じゃない。それとも石なの? 時々そう思える、だって例えば寝ている間は1ミリも動かないから」。2015年ラサリーリョ賞絵本部門の栄冠に輝いたタッグが戻ってきた。今回は時の流れや老化、そして死を子どもの目を通して語る優しく感動的な物語。幼い子どもを対象に、愛する人の旅立ちを、現実を踏まえつつほっこりと、そして誠実に語りかける。