■あらすじ・内容
本が大好きなエンマは、もうすぐ8歳の誕生日をむかえる友だちのセバスティアンのために最高の贈りもの、つまり、最高に楽しい本を贈りたい。「そんな本が見つかるかしら?」とお母さんは言うし、エンマも難しいかもしれないと思っているけれど、でもどこを探せばいいかはわかっている。
それは本屋さん。エンマは本屋も大好き。早速お母さんと、書店員のアリシアがいる本屋に行き「最高に楽しい本」を探すことに。
最高に楽しい本には恐竜が出てこなくちゃ。あとダンサーもいて、お料理のレシピが載っていて、それから宇宙船も出てくるはず。エンマのリクエストにこたえて次々とアリシアが見せてくれる本はどれもステキだけれど、「最高に楽しい」とまではいかない。
「ここにないならもうどこを探したらいいのか……」とうとう泣き出して店を出て行こうとするエンマ。その時アリシアは、白いページだけの大きな本を見つけてエンマを引き止める。見つけた! 家に帰ったエンマは自分の部屋に駆け込み、想像力をふくらませる。
次の日、セバスティアンの誕生日会でエンマは自分で作った「最高に楽しい本」を贈る。そこには恐竜と一緒にブレークダンス大会に出場するダンサーを探しに、おやつを作って宇宙船で旅に出る、という物語が描かれていた。
■所感・評価
この作品はマイアミのクアトロガトス財団による、2022年の推薦図書ベスト100冊にも選ばれた。ネットに書き込まれたレビューをみても評判がいい。その中には「典型的な子ども向けの物語とは一線を画していて画期的だ」という意見があった。
『ほん book』(デイビッド・マイルズ作 ナタリー・フープス絵 上田勢子、堀切リエ訳 子ども未来社)のように子ども向けの、読書の世界に誘うような絵本はあるが、たしかに本好きな子が本をプレゼントするとういう物語はなかなか見当たらない。また、リクエストに応えてアリシアが次々に本を探し出してくるという、書店員としてプロフェッショナルな仕事ぶりを紹介する内容も、絵本では珍しいように思う。
主人公のエンマには明確にほしい本のイメージがあり、大切な友だちにすばらしい贈り物をしたいという思いやりと意志がある。また、イメージ通りの物語がないなら自分で作ってしまおう、という情熱もある。その姿は著者のインマ・ムニョスにも通じるところがあるかもしれない。作家、童話作家、編集者として活動し、この本の出版社であるオチョエンプントの設立者でもあるムニョスは、各地のブックフェアや読み聞かせイベント、学校図書館などで自著の紹介を行なっており、彼女もまた「最高に楽しい本」を作り、届けたい人なのではないだろうか。この本には、読むこと、物語を作ること、本屋に行くこと、本を選ぶことという、本にまつわる色々な楽しみが詰まっており、それを体験してもらいたいという著者のメッセージが感じられる。
出版社のサイトによると、この本の読者の対象年齢は4歳から10歳となっており、ちょうど書店で自分の好きな本を選び始める年頃の子どもたちに最適な本だと思われる。
そんな本あるわけないと思わせておいて、エンマは「最高に楽しい本」の条件(恐竜・ダンサー・料理のレシピ・宇宙船)すべてを網羅した本を完成させた。エンマの作った物語も読んでみたくなる。親しみやすくかわいらしい絵は日本の子どもたちにも受け入れられるだろう。
ただ、エンマが創造した物語が唐突に最後の見開きページに出てきて、それがエンマの描いた本の中身であるということが少々分かりにくい。日本で出版する際、このページについては本文の書体を変えたり、セバスティアンの「気に入ったよ!」という吹き出しを強調するなどの工夫が必要になるだろう。
■試訳(冒頭から21ページまで)
「たのしくて、とくべつで、すっごくすてきだよね!」
セバスティアンはもうすぐ8さい、エンマは友だちにさいこうのプレゼント、そう、さいこうにたのしい本をおくりたいとおもいました。
エンマはひるごはんのじかんにお母さんに自分のアイディアをはなしました。
「そんな本を見つけられるかしら?」お母さんはニンジンのクリームスープをかきまぜながらそう言うとかんがえこんでいました。
エンマはとてもむずかしいことだとわかっていました。でもどこからさがせばいいかははっきりしていました。
本屋はエンマのお気に入りのばしょです。本のにおいをかいだり本にさわったりして本だなのあいだにまよいこむのが大すき。
ことばがいっぱいの本も、大きな絵が入っている小さな本も、ゆびをくすぐるような手ざわりの本も、やわらかいぬのの本もすきです。
本屋につくと、てんいんさんがにっこりとまねき入れてくれました。
「こんにちは、アリシア。わたし、さいこうにたのしい本をさがしているの」
「どんな本ですって?」アリシアはおどろいてたずねました。
「さいこうにたのしい本よ! きょうりゅうのおはなしがいいんだけど」大きく目を見ひらいてエンマがいいました。
アリシアはとてもうれしくなりました。なぜならきょうりゅうの本ならたくさんあったからです。まるでしゃしんのような絵が入った大きな本、大きな歯(は)をもつきょうぼうなきょうりゅうが出てくる本、ほかにも、あしでとらえたものをかたっぱしから食べてしまうので、どんどん太っていくティラノサウルスの本もありました。
「まぁ、なんてすてきなの! でもきょうりゅうと、ダンサーが出てくるさいこうにたのしい本がほしいの」エンマは本だなをねっしんにさがしながら、おちつかないようすでいいました。
アリシアはあたまをかきながらかんがえました。おどるのをやめられないゾウの本、まんげつのよるにだけダンスをする3人の女の子の本、ほかにも、ジャンプしながらあちこちとびまわるビリーという名の男の子が出てくる本をエンマに見せました。
「どれも大好きよ。でもきょうりゅうとダンサーと、おりょうりのレシピがのっているさいこうにたのしい本がほしいの」エンマはふあんげにつめをかみながらいいました。
アリシアはいきづまってしまいました。かんぺきな本をさがすのはなんてむずかしいんでしょう! りょうり本のコーナーに行って、人形のために色ねんどで作るとてもかわったレシピ本、20だんのケーキを作るための本、ほかにも、まじょのスープを作るためのまほうのレシピしゅうをエンマに見せました。