時間をかけて自分の居場所を見つけたダニエルだったが、その夜、ポルトボウの人気のない駅で友人の到着を待っている間に、思い出がふいに押し寄せてくる。なんということのない平凡な人生、ソフィア・ドゥランとの思い出、そんな人生に影を落とす、近年のヨーロッパの歴史がからんだある悲劇を織り交ぜて話は進行する。記憶の中で主人公は、その時々の心の動きという舞台を通して読者を物語に導く。都会の風景描写は読み手を魅了し、親密なトーンにサスペンスの味付けの加わった物語は、一気に読まずにいられない。跡形もなく変貌していくヨーロッパを背景に、住み慣れた土地を離れた人々が求め、求め合い、ひとつの時代の中で、個人のひそやかな歴史とその時代の人々の歴史がからみあう。