ペドロ・アルモドバルは自身の作品の大半をマドリードで撮影してきた。いや、マドリードの中にあるたくさんのマドリードで、と言ったほうがいいだろう。彼自身こう語っている。「この大都会で僕はいつも、それぞれの作品にぴったりな景色と、そぐわない人々を見出してきた」と。アルモドバルの映画とマドリードの関係は、ほぼ彼の自伝となっている。いずれの作品においても、彼は登場人物を巻き込んでいる。つまり、アルモドバル自身が過ごした通りや広場、地区、カフェ、建物、レストラン、バルなどが原型にあるのだ。本書では、物理的、概念的な側面から制作の一連の過程を見ていく。その過程からは、アルモドバル作品の特徴であるマドリードを知ることができるだけでなく、もはやその存在なしでは作品を理解できないほどこの街がいかにして作品の中心軸となったのかも明らかにすることができる。