冒険推理小説として読める、芸術の世界を描いた図版入り作品。本書はユニークな形で芸術とその歴史にアプローチしていく。数々の作品が時の流れとともに様々な場所を経て現在に至る、その旅(戦争、略奪、返還、有名な窃盗事件、遺産の奪い合い、コレクションの流行、売買やオークションがもたらした結果)をテーマとしている。こういった旅の醍醐味は、「アルノルフィーニ夫妻像」や「鏡のヴィーナス」(他にも、知名度は劣るが背景に偉大な歴史を持つものがある)のようなすぐれた作品の歴史に近づけるだけでなく、魅力的な人物、出来事、感情、芸術様式とムーブメント、作品が通過してきた象徴的な空間(芸術家のアトリエから、愛人の寝室や銀行家の執務室を通り、美術館のホールにたどり着くまで)がモザイクのように組み合わさった背景を知ることができる点にある。