ひとりの女が夫を精神病院に入院させた後、列車でマドリードへ帰るときのこと、列車の中で見知らぬ男に、彼の人生の話を聞きたくないかといきなりたずねられる。男は先刻の精神病院で働いている精神科医。患者の語ったことや書いたものを通して人格障害を研究しているという。その文書が入ったファイルを、男はたずさえていた。ところが、男は途中駅でしばしホームに降りたときに列車に乗り遅れ、ファイルは女の手に残される。こうなると、読者は女とともにファイルの中身を読みたくてたまらない。創意にあふれた患者たちの物語が、セルバンテス的手法の見事な円環構造の中で展開していく小説。