カダケス郊外の荒れた屋敷に住むサイモン・シュナイダーは、大成功を収めたある作家のために仕事をしている。その作家は自分のことをグラン・ブロスと呼ばせ、ニューヨークに隠れ住んでいる。サイモンは言ってみれば「北斎」のような存在。つまり、ほかの作家たちのために適当なフレーズを提供する仕事をしている。だが、その中にかの有名なトマス・ピンチョンがいることを彼は想像すらしていない。ある日の午後、無限を表す文章を思い出すことに行き詰ったサイモンは、屋敷を出て長い散歩にでかけ、失念した引用文を探す。不在から生じる絶えることのないエネルギーについて、書くことへの絶対的な信頼と徹底的な否定の間におこる緊張についての小説。現代における最高峰作家のひとり、エンリケ・ビラ=マタスは、唯一可能な独創性とは、文芸の創作を理解するふたつの方法の間に繰り広げられる、輝かしい才知の決闘の中にある引用の技術から生じるというパラドックスに光を当てる。