本書は父親と息子(テオ・アバド、戦場レポーター、本書の語り手)の愛情の物語であると同時に、孤独な女たちと、不当な武力紛争から帰還した英雄たちとの愛情の物語である。さらには、アンティゴネーとイーピゲニアというギリシャ文学の神話的登場人物に対するオマージュでもある。アンティゴネーが兄を埋葬しようとするように、ジュディット(この小説の主人公)は60年代にフランコ体制に殺害された両親の遺体を見つけて埋葬したいと思っている。イーピゲニアが生贄になったことは、エディパ、タマラ、ラ・ニニャといった女性たちの遺体で体現される。舞台はマドリードの人口密集地、エントレビアス地区という実在の魅惑的な地区。戦争とそれに伴う不正、他人の人生を決定する権力は誰が持っているのか、いないのか、といったことを考えさせる一冊だ。