イグナシとマリアは最初から別れる運命にあった。マリアが転校してきたとき、みんなが彼女のかかえる問題、ひどい殴打を受けて母が昏睡状態で入院していることを知っていた。だが暗い過去がマリアの行く手に影を落とすことはなく、間もなく彼女はクラスの中心的存在になる。ほほえみと機知に富んだマリアは、大勢のなかでもひときわ輝いている。ずっとその学校に通うイグナシの特技は、いてもだれにも気づかれないこと。ふたりの親友以外、だれも彼を気にとめない。沈黙が隠れ家だと、自分でもよくわかっている。だからこそイグナシは、マリアの笑顔と気配りの裏に秘密が隠されていることにすぐ気づいた。たがいの道が交差したとき、マリアとイグナシの人生はやっかいなものとなる。沈黙に親しむ者は、真実が聞こえ始めるとバランスを失うのだ。