■概要
0歳から100歳までの子どもが持つ10の権利を詩の形式で紹介する絵本。
■内容
見開きの左側のページに10の権利のそれぞれが見出しとして書かれ、右側のページに「きみたちは〇〇という権利があります」という書き出しでその権利についての説明がある。次の2~4ページにふたつの詩(自由に生きる権利のみひとつ)が書かれている。
1.遊ぶ権利
『生き生きとした蟻塚』奴隷アリたちが、遊びたいと決起して自由を得る
『大きくなったら』喜びに満ちた人生を送るための秘密を語る老人
2.夢を見る権利
『夢見る人たちの国』すべてが逆になっている国
『手と翼』鳥のように飛びたいと夢見る女の子
3.学ぶ権利
『図書館』宝物でいっぱいの図書館
『学校の外で』あらゆることから学ぶことができる
4.自分を愛する権利、だれかを愛する権利、だれかに愛される権利
『疲れたハエ』迷子のハエがカエルに助けられる
『ぼさぼさ頭のネズミ』身なりを気にしないネズミが周りの意見を気にせず我が道をゆく
5.自然と生きる権利
『フクロウのペペットとマリア』フクロウが夜じゅう起きているようになった理由
『街の木』誰にも顧みられない街路樹の悲しみ
6.幸せになる権利
『幸福のレシピ』幸せの材料と作り方
『幸せな怪物』幸せになりたい怪物の話
7.悲しむ権利
『プンチョの助言』新しい貝殻に引っ越すことを悲しむヤドカリに助言をするハリネズミ
『巨人の力で』悲しみを徐々に癒す方法
8.泣く権利
『いっぱいになったポケット』涙をポケットの中にしまっていた女の子
『涙語のことば』涙は別の言語のことばのようなもの
9.退屈する権利
『壊れた時計』時計を壊して、退屈な一日を有意義に過ごす
『牡蠣のように』牡蠣は退屈ではない、と海の牡蠣がデモをする
10.自由に生きる権利
『自由に鼓動する命』自分の意思に従って行動する自由を歌い上げる
■所感・評価
「子どもの権利」と聞くと、「子どもの権利条約」のような、大人が保障すべき子どもの基本的人権のようなものが思い浮かぶかもしれない。しかし、本書が詩の形式で取り上げている「権利」は、どちらかというと自発的・内面的なもの、つまり「感情の権利」だ。周囲からの言葉がけにによったり、行動を制限されたり強要されたりすることで、子どもたちが心の中の動きを止めてしまうことがあるだろう。そんなとき、本書は、夢を見たり、悲しんだり、退屈したり、自由に生きていいんだよ、あなたはそうする権利を持っているのだから、と教えてくれるのだ。
これらの権利は、もちろん、狭い意味での子どもだけのものではない。本書の中でも冒頭に「0歳から100歳の子どもたちが持つ権利」と謳われているとおり、何歳になっても守られるべき権利だ。むしろ、日々の生活にがんじがらめになっている大人がいたら、本書に触れることで、自分の感情をもっと大切にしたり、見つめなおしたりするきっかけになるだろう。
本書の表紙と裏表紙は、心を明るく軽くしてくれる黄色だ。その中に、白く浮かび上がる大きな月を背景にして、ネズミとホタルが向き合っている。「自然と生きる権利」の中のフクロウの詩に出てくる場面だ。全編を通して、優しい色使いの絵が詩の主題に合わせて描かれている。詩は、前述の「内容」でご覧いただけるとおり、虫や鳥、小動物などが活躍する空想的なもので、権利を理解するためと身構えなくても、ひとつひとつが小さなお話として楽しめるものばかりだ。
子どもが一人でじっくり本書と向き合うのもいいけれど、理解をさらに深めるなら、大人も一緒に読みたい。実際、スペインの版元では、学校や児童センター向けの教材を作成中だという。また、地元バルセロナ市にある図書館のひとつでは、「家族ごとに自分たちの幸せのレシピを作ってみよう」「夢見る人たちの国に実際に住んでみたらどのようになるだろう」という内容で、著者らを招いてのワークショップが企画されていた(中止になった模様、バルセロナ市のサイトより)。
子ども(と一緒に活動する大人たち)がこの本を読むことで自分の心に自由になり、自分以外の人たちの心も尊重するようになる、そんな使われ方ができる本だ。
■試訳(34ページから37ページまで)
しあわせになるけんり
きみたちは ほほえみながら生きるけんり
はずかしがらないでおどるけんり
そして うそをつかないで生きるけんりがあるよ
おなかを空かせないけんりや、せんそうのせいで
心やたましいを
きずつけられるしんぱいを しなくていいけんり
しあわせな子どもになりたい というねがいを
だれにもとられないで
ちょっと大きくなってから 大人になるけんり
『しあわせのレシピ』
大きなおなべに ひとにぎりのよいおもいで
ちょっとしたよろこび そして1000トンの愛をふりいれます
力づよくゆっくりとかきまぜ
火にかけてポコポコと音がしてきたら
ねこを2回なでたものと いろいろな色のたくさんのえがおをくわえます
しあわせができあがったら
ガラスのビンに そそぎましょう
心がきずついたとき
目をとじて においをかげば
つよい北風が ふきとばすように
つらいきもちが ふきとぶでしょう
『しあせなかいぶつ』
みどりのかいぶつを 知っているよ
ひるまは 森のなかにかくれているんだ
まつの木とプラタナスのうしろ
わらとひもでできた家に すんでいる
夜になると こっそり出かけるんだ
しげみにへんそうして かくれながらいくよ
なぜって へんそうしないで歩きまわっていると
見つけたみんなが こわがって ひめいを上げるからさ
かいぶつは みんながどうしてにげていくのかが わからない
いきが くさいからかな?
はが きいろいからかな?
はなが みどりいろだからかな?
かいぶつは ある朝 スズメにきいてみた
どうしてみんな ぼくを見ると さけぶんだろう
とりが ひみつをうちあけると
かいぶつは なきはじめた
その朝 かいぶつは 町のひろばにいった
子どもたちみんなに 本当のことを 教えるため
メガホンを手にもって
さけびはじめたんた
「おとなは うそつきだ
きみたちが 夜 ねむりたくなくても
いい子にしていられなくても
ぼくたちかいぶつは 子どもをつれていったりしない
ぼくたちかいぶつも 本が読みたい
スケートボードで山をおりたい
マドレーヌとパンを買いたい
ほかの子たちと同じように しあわせになりたい」
目を オレンジみたいにまんまるにして
みんなが かいぶつをじっと見ていた
そして ブランコにのってゆれながら
怪物は 大きなわらい声をあげたんだ