■あらすじ・内容
森に住むハリネズミのプアスは友だちのことをぎゅっと抱きしめたいけれど、自分の針で傷つけてしまうのが怖い。みんなを抱きしめてケガをさせてしまったら、怒ってみんな森を出て行ってしまうのではないか……そんな想像ばかりしてプアスはへんになってしまいそう。そしてついにおかしなことを思いついた。そうだ、針を抜いてしまえばいいんだ! 予約した美容院に行くと、そこにはプアスと抱き合ってもケガをしないよう、特別な服を着た仲間たちが待っていた。もう針を抜く必要はなくなったけれども、せっかく美容院にやってきたのでプアスは針をカラフルに、流行りのスタイルに変えたのだった。
そして、プアスからのメッセージが読者に語りかける。ありのままの自分を受け入れることや、困ったことがあったら家族や友だちに相談することが大事だということ、抱きしめることはすばらしいことだけど無理強いしてはいけないことなど。
■所感・評価
ハリネズミが主人公の絵本は意外と多い。その中で、針のせいでハグができずに悩むハリネズミの物語としては『おくりもの』(豊福まきこ BL出版)、『ハッピー・ハグ』(オーイン・マクラフリン作、ポリー・ダンバー絵、椎名かおる訳 あすなろ書房 )などが挙げられるが、結末も解決方法もそれぞれ違う。プアスと友人たちの解決方法もユニークだが、それ以上に本書は教育的側面が強く押し出されているところに他の「ハリネズミ系」の本にはない特徴がある。
本書は、プアスの友だちがプアスの悩みとそれを解決するまでを語る絵本部分と、プアスがことの顛末を振り返りつつ読者に語りかける手紙のような、ほぼ文字で構成される部分に分かれており、この物語から何を学んでほしいかがプアスを通じて丁寧に語られている。これは著者のフアニ・ベリリャが教育心理学学士であり、マドリッドの公立学校で働く教育者であるということも関係しているのだろう。物語を楽しんでもらいたい。それ以上に、ありのままの自分を受け入れてほしい、友情の大切さに気づいてほしい、ハグの効用を知ってほしい、というような、あふれんばかりの著者の思いが伝わってくるような作品である。
本書はすでに第5刷を数え、イタリア語版に続きポルトガル語版の出版も予定されている。また続編の「プアスと新しい隣人たち(Púas y sus nuevos vecinos)」も出版され、人気のほどがうかがえる。ハグの習慣がないとはいえ物語は楽しく、日本でも十分に受け入れられる作品だと思われる。教育現場において、自己受容について一緒に考えるというような使い方もできるだろう。
この作品には歌があり、巻末に歌詞も載っている。また著者がこの歌を歌うサイトのQRコードもついており、スマートフォンなどで歌を聴くことができる。日本で出版する際に日本語吹替版を作成することは、権利などの問題でハードルが高くなるようなら省いてもいいように思う。
それから、プアスのぬり絵も付いているのだが、これは日本語版でも活かしたい。絵本パートの最後はプアスが針をカラフルに染めるところで終わるので、この本を読んだ子どもたちにもそれぞれ思い描く色でプアスをぬって楽しんでほしい。
■試訳(冒頭から29ページまで)
これは友だちのプアス。ハリネズミのプアスは森の大好きななかまたちを、ぎゅってだきしめたいとおもっているんだけど、きずつけてしまうのがこわいんだ。
でも、だいじょうぶだってことをしょうめいしてみせるよ!
プアスは、だきしめることで森がどんなことになるだろうって、かんがえだしたらとまらないんだ。
カメのマルセリーナをだきしめて、プアスのハリがささってしまったらどうなるだろう、とかね。
マルセリーナはこうらにひっこんで、もうぜったいに出てこないだろう。
あんなに日なたぼっこがすきなのに!
プアスはキツツキのフェデリコをだきしめたらどうなるだろうともかんがえる。だきしめたらつばさにあなをあけてしまい、とべなくなってしまうだろう。
木から木へとびうつって、大工としてはたらくのがあんなにすきなのに!
べつの日には、ノウサギのフアナをだきしめてハリだらけにしてしまい、フアナが毛づくろいをするとき、したにハリがささって毛づくろいができずに、ふけつなままになってしまったらどうしようとかんがえた。
あんなにおしゃれできれいずきな子なのに!
でもさいあくなのは、友だちみんなをだきしめるとそうぞうした日だった。
そんな日のプアスはもうおかしくなりそうだったんだ。
プアスをリラックスさせるために、みんなでヨガのレッスンをしなくちゃならないほどだったんだよ!
プアスは、ぼくたちをみんないっぺんにだきしめてきずつけて、ぼくたちがおこって森から出て行ってしまったらどうしようと思っていたんだ。
プアスはおちこんでいた。すぐにでもだきしめたいのに。
たくさんたくさんかんがえて、プアスはとんでもないことをおもいついた。
ハリをぬこう!
プアスのけついはかたく、その日の午後にクマのハシンタのびよういんをよやくした。
プアスはこうすいをふりかけ、歯(は)もきれいにみがいた。
ハシンタにハリをぬいてもらったらすぐにでも友だちをだきしめられるように、すべてをととのえた。
じつはぼくたちも、このときのためにじゅんびをしていたんだ。
サプラーイズ!
プアスに、ハリをぬかなくてもいいんだってことを、ついにしょうめいすることができた。
ぼくたちはいつでもだきしめ合えるように、とくべつなふくを作ったんだよ。
でも、せっかくびよういんをやくしてあったので、プアスはきめたんだ……
さいしんのスタイルにかえるってね!