■あらすじ/内容
「なぐり書き」という意味の名前をもつガルゴットはエンピツの先端に住んでいる。そこから、エンピツが完ぺきな円や、非の打ちどころのない四角、おしゃれな形のひし形を描くのを眺めている。美しく描かれるそれらの形とくらべて、なぐり書きの自分はなんて不完全で、欠点だらけなのだろうと思うと、外の世界に出ていく気がしない。
きれいな形を描きながら、エンピツ自体は削られてどんどん小さくなっていくが、エンピツから不完全ななぐり書きが出ていくことはない。いよいよエンピツの終わりが近づいたとき、エンピツはガルゴットに言い聞かせる。完ぺきなことなんてないし、ガルゴットは不完全なんかじゃない。外の世界に出て、自分が素晴らしいものになれるってことに気づくべきだと。ガルゴットの形は、素敵な上着の縫い目や、女の子の巻き毛や、もじゃもじゃのヒゲや、洋服の模様やネコのしっぽの先の毛にだってなれる。部屋の隅っこにある、けば立った布地や、それを吸い取る掃除機のコードにだってなれるのだ。海の上を進む蒸気船から空に昇る煙にだって、冬にえんとつから出る煙にだってなれる。
エンピツの言葉を聞いて、ガルゴットは失敗や、誰かに好かれないことをおそれず、自分の可能性を信じて、完ぺきじゃなくても、ありのままの自分でいようと決心するのだった。
■所感
エンピツの先端に住んでいる「なぐり書き」(ガルゴット)という名前の落書きのような線の集まりが主人公という奇抜なストーリーで、顔が描かれているエンピツ自体はわかりやすいが、主人公のガルゴットには目や口があるわけではないので、子どもにとって主人公は「人物」とはとらえづらく、少しわかりにくい存在に映るかもしれない。エンピツが「なぐり書き」に諭している場面などは、大人が補足しないと十分に理解されない恐れがある。
「なぐり書き」された線のほつれのような主人公がいろいろなモノの一部になり得ること、また同じものが置かれた場所や解釈によって変化しうるということは、大人の視点からみれば新しい発見のように映るが、見たままを受け入れる子どもの目からすれば、むしろ自然に受け入れられないことかもしれず、ストーリー全体はすんなり読み進められるかどうか、疑問が残る。
完ぺきじゃなくていいということ、完ぺきじゃないからこそ魅力があるというメッセージは一度や二度の読みではなかなか伝わらないかもしれないが、「なぐり書き」を基に、洋服、女の子、ネコ、掃除機、ほうき、コンセント、煙突、船、教室と多様なモノが場面ごとに背景を含め丁寧に描かれており、目移りする子どもには楽しく、飽きさせない魅力がある作品といえるかもしれない。
第4回アルガール児童文学賞(4歳から7歳の読者を対象としたすぐれた作品を絵本として出版するための助成金が授与される)2022受賞作品。ブラジルでの出版が決定。
■試訳(冒頭から)
むかしあるところに とってもおくびょうな「なぐりがき」のガルゴットがいました
ガルゴットは エンピツのさきっちょにかくれてすんでいました
ガルゴットはいつも いろんなしゅるいの かんぺきなまるや
しかくが すてきにえがかれるようすをみていました
ほかにもまわりには くつしたやくつ レオタードをかっこよくみせる
とんがった かっこいいかたちの ひしがたも
それで ガルゴットは? へにゃへにゃなせんでしかないガルゴットは
じぶんがふかんぜんで わるいところばかりで ぜんぜんだめだとおもって
えんぴつのさきっちょからでようとしませんでした
けしごむでけされるのが こわかったせいもあるけれど!
じかんとともに えんぴつは かんぺきな まるやしかく
かっこよくとんがった ひしがたをかきながら
けずられて どんどんちいさくなっていきます
でも ひどいかたちの なぐりがきのガルゴットが えがかれることはありませんでした
なんどもけずられながら たくさんのきれいなかたちをかいたあとで
おわりがちかづいたエンピツは ガルゴットにはなすことにしました
ふかんぜんなことなんて なにもないんだってことを
「かんぺきなものなんて ないんだよ!」
「そとのせかいにでるんだ きみだって たくさんのすばらしいものになれるんだから」
エンピツはガルゴットにそうはなしました