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De bestias y aves
タイトル:
野獣と鳥類の
著者:
ピラール・アドン (Pilar Adón )
出版社:
ガラクシア (Galaxia Gutenberg SL)
レポート作成:
小机菜穂

■概要

心に傷を抱え、誰にも心を許すことなく生きてきた女性画家コロ。ある夜すべてを投げだし、何時間も車を走らせた挙げ句、自然保護区にある1軒の家に行き着く。ベタニアと呼ばれるその家には、外界とほとんど接触を持たず、独自のルールで暮らす女たちがいた。そしてベタニアで過ごすうちに、コロは本来の自分を取り戻し、自らの居場所を見つける。

 

■主な登場人物

コロ       50歳くらいの女性。細密画や祭壇画を描き、成功を収めている画家。

トレサ     ベタニアの家事全般を仕切り、規律を好む。
カティーナ        トレサと共に家事を仕切る。

アデル         好奇心旺盛で、質問するのが好きな12歳くらいの女の子。ベタニアしか知らない。

レベッカとマグダレナ  双子の少女たち。15歳くらい。

グロリア     ベタニアの地下に住む。

ミッサ・ティタ      ベタニアの住人。盲目で車いすに乗る老女。崇拝されている。
トビアス・モス      ベタニアは自分の敷地だと主張する男。

 

■あらすじ

 夏の終わりのある夜、コロは目を覚ますと、このままではいけないと直感的に思った。何日もシャワーすら浴びず身なりにも構わず、まるで獣のようで、見るからに精神的な問題を抱えていた。常に強迫観念にかられ、車の事故で溺死した妹の肖像画を描いては壊すことで正気を保っていたのだ。携帯電話も持たず、妹の肖像画9枚を持ち、家を飛び出した。行く先も決めずひたすら車を走らせたが、ガソリンが残り少ないことに気づく。ガソリンスタンドを探しているうちに道に迷い、黒い鉄格子に囲まれた敷地に突き当たる。

 鉄格子のむこうから、その敷地『ベタニア』に住むカティーナがやってきた。土地を目当てに近寄ってくる連中がいるようで、いぶかしそうに車の中を見たり、コロを質問攻めにしたりした。コロがガソリンをわけてほしいと頼むと、カティーナは敷地内へついて来いと言う。ためらいながらも、コロは車でカティーナの後に続く。車から降りると、家からトレサが出てきた。ふたりとも同じ髪型をして、同じワンピースを着ている。コロは再びガソリンをわけてほしいと頼むが、ふたりは耳を貸さず、コロをしつこく家に誘う。

 断り切れず、結局2階の一室で一夜を過ごしたコロ。部屋にはパンという犬がいた。ここではそれぞれに犬が一匹あてがわれているらしい。階下では女たちが朝食をとっていた。まだ幼いアデル、双子の姉妹レベッカとマグダレナも一緒だ。みんな愛想はいいのだが、一刻も早くベタニアから出たいと思っているコロの願いをよそに、会話がかみ合わない。

 アデルは学校に通っておらず、トレサとカティーナと共に勉強しているようだ。授業があるので数時間待ってくれと押し切られ、コロはそれまで待つことにする。部屋に戻ると、トレサは自分たちが着ているワンピースと同じものをコロにあてがった。トレサは、コロがベタニアにとどまることを前提に、家を整然と保つことが精神的にいかに重要か、本、芸術、植物以外の余計なものは手放すべきだ、などとベタニアでの生活基準を細かく説明し、ベタニアにとどまり自分を見つめるべきだと、見るからに精神的に病んでいるコロを諭す。

 トレサが去るとアデルとカティーナが部屋へやってきた。好奇心旺盛なアデルは、その日学んだことを事細かくコロに説明する。コロはなぜ自分にそんな話をするのか理解できず、敷地と湖との間にそびえる巨大なとがった岩を眺めている。そして、みんなが崇拝しているミッサ・ティタのパーティーに参加しないかと誘われる。

 昼食時、みんなはコロがいることを当然のように振る舞うが、コロは何も言わず様子をうかがっている。ベタニアの女たちは、その特別な空間で、他の誰にも邪魔されず、日々の暮らしを謳歌しているようだった。

 地下に住むグロリアが、トビアス・モスという男から「この家は自分のものだ」と主張する手紙を預かってきた。女たちは鼻で笑うが、カティーナは用心のためにそれぞれにナイフを与えた。コロは彼が自分を助けに来たと思い込みグロリアを問い詰めるが、めまいがして倒れてしまい、結局その夜もベタニアに滞在することになる。

 翌日、コロは例のワンピースに着替えようかとも思ったが、服従することになる気がしてやめた。家に誰もいなかったので、逃げ道を探して走り続けたが、ミッサ・ティタの儀式に参加していた女たちに遭遇してしまう。コロはミッサ・ティタに自分がどうしてここにいるのか興奮気味に詰め寄るが、また失神してしまう。目を覚ますとアデルしかいない。アデルは自分とミッサ・ティタは特別な関係で、ミッサ・ティタの考えていることがわかる、コロに必要なのはベタニアに慣れることだ、と言う。

 簡単にはベタニアから出られないと悟ったコロは覚悟を決め、敷地内を歩き回り、観察し始めた。偶然見つけたトビアス・モスの住処で、彼に遭遇する。トビアス・モスは、ベタニアは自分のものなのに、しばらく留守にした隙に、女たちに占領されたと主張する。コロは女たちに捕らわれていると説明するが信じてもらえない。そうしているうちにコロを探しに来たグロリアに見つかり、連れて帰られてしまう。

 無邪気なアデルはトビアス・モスを知っているというが、みんなは信じない。コロはそれからアデルについてまわり、アデルの両親のことなどをしつこく聞くが、ベタニアしか知らないアデルは理不尽さや現実を突きつけられ戸惑う。

 ある日コロがアデルと一緒に部屋にいると、銃声が聞こえた。ポーチにトビアス・モスが倒れている。そばに立っているトレサの足元には猟銃があるが、何が起こったのかはわからない。カティーナはトビアス・モスを生きたまま地下の湖のよどみに投げ捨てると言う。グロリアはコロを連れ、地下へ水の状態を確認しに行く。奥に行くにつれ狭くなり、壁の開口部を抜けると洞窟のようになっている。そこには光のヴェールに包まれたターコイズブルーの水面が広がっていた。その神聖さにコロは一瞬で魅了され、引き寄せられるような強い力を感じた。グロリアがほかのみんなを迎えに行った隙に、コロは水の中に入る。車が転落し、浸水してくる様、妹が死んだ事故のすべてを鮮明に思い出した。そして、あのとき水中から脱出したように、このよどみから湖へ抜け出ることで自分は救われるのだと確信する。

 みんなの叫び声が聞こえた。コロは沈んでいきながら、妹が死んだとき、大人たちはコロに真実を話さず、コロもまたその嘘を信じているふりをしたことを思い出していた。事実を受け止めず、自分の気持ちを見つめることなく、そのまま人生を歩んできたのだ。そのとき上から引っ張られるような感覚がした。死んだときの、幼いままの妹が、コロの横にいた。もう息苦しくない。妹はここにいたのだ。

 コロはグロリアに引き上げられたが、みんなは慌てている。レベッカがコロを探してよどみに入り、出てこないという。その間にトビアス・モスは意識を取り戻し、自分がこの家を建てたのになぜこんな仕打ちを受けるのかと責めるが、女たちはレベッカのことで頭がいっぱいで相手にしない。結局レベッカは見つからないが、カティーナはレベッカが戻ってくると信じている。

 コロは自然の中で過ごすことが多くなった。湖の中に消えたレベッカを探すマグダレナを遠くから見ていた。妹を失ったときの自分に重ね、何も言わないことに決めた。他の女たちにとって、コロはもはや重要な存在でなくなっていた。今なら出て行くのは簡単だが、コロは妹がいるこの土地こそが自分の居場所だと確信している。

 コロはひとりで湖に行き潜ったが、何も見えない。それでもあの時感じた妹を思い出しながら息の続く限り潜った。もうベタニアを出て行くことは考えていない。鳥のように飛ぶことはできないが潜ることはできる。妹を近くに感じるために。

 秋が近づいてきた。コロは器に絵を描いたり編み物をしたりしながら、ベタニアで心穏やかに生活している。精神的な強さを取り戻した今、ひとりでいることはもう怖くなかった。

 

■所感・評価 

 あらすじは時系列に従い、コロがベタニアに至る経緯から整理した。実際は第1章が物語の終盤、第2章が物語の冒頭、つまりコロがベタニアに到着する場面に相当し、それ以降は時間の経過とともに物語は進む。

 文体はシンプルで、短く簡潔な文章が主体となっている。主人公コロの視点を用いながらも、三人称の過去形で語られる。ピリオドを多用し短いフレーズを重ねる、感覚的とも言えるスタイルが多く見られる。好き嫌いはあるだろうが、物語に入り込みやすいと感じた。

 新約聖書では、キリストが病死したラザロを生き返らせた場所が「ベタニア」だと言われており、一緒に事故に遭った妹(あるいは姉)を喪い、自分だけが生き残ってしまったというトラウマからコロが再生する場所として「ベタニア」と名付けられたと考えられる。またラザロは姉妹と一緒に暮らしており、同じ身なりのトレサとカティーナや双子の姉妹といった登場人物たちと重なる。

 トラウマを抱え、また他人に気を許すことなく生きてきたコロ。それ故他者とうまくコミュニケーションがとれず、コロが本当に望んでいること、つまりベタニアから脱出する方法を得ることができない。ベタニアの地下にある湖のよどみを見つけたとき初めて自分と向き合い、過去の悲劇と折り合いをつけることで、コロなりに心の平穏を取り戻す。

 この物語の解釈は複雑だ。多くの要素に象徴的な意味があるように見えるが、それらは明らかにされていない。ベタニアやそこに住む女たちはコロの心の中にだけ存在するのかもしれない、とすら思わせる。しかし、生き生きとした文体や、他の登場人物とのかみ合わないコミュニケーション、脱出不可能に思えるベタニアや家の地下にある湖のよどみの存在といった要素は、物語の結末と象徴的な解釈の両方を知りたいという読者の欲求を高める。スペインならではといった描写はないが、リアルな自然の描写、不穏な空気感や作者独特の文体は、日本の読者を作者の世界感に深く引き込むだろう。

 

■試訳(p.47 -p.49の11 行目)

 みんな愛想はよかった。食卓を準備し、朝食をふるまってくれた。会話にいれてくれた。でもコロは何もしない。冷たくあしらいたくはなかったが、出ていかなければならなかった。着替える、家を出る、車に乗る、そしてここから立ち去る。

「ほら、また誰かお目覚めだよ」

 地下へ続く階段室から頭がのぞいた。腰壁から浮き出るように、肩、腕、あっという間に女性がひとり。朝日の強さに耐えられないとでもいうように、目は半分閉じている。

「おはよう」みんなが言う。

 やってきたばかりのこの女は、返事もせずにほかの女たちの後ろを通って、左側の扉のほうへ向かった。

 犬が一匹ついて行った。

「ああ、グロリア」トレサが言った。「パン、食べるかい?」

 返事はない。乱暴に開けた扉が壁に当たる音、そして流しに置かれていたガラスの食器に蛇口から落ちる水の音だけが聞こえる。そこはキッチンだ。

「グロリアは一緒に食べないの」レベッカがはっきり言った。

「あまり人と関わらないから」

 犬はキッチンに入るのを禁止されているようで、くるっと回ると床に伏せた。息を吐いてテーブルの近くで丸くなり、待っている。

「みなさん、ここにお住まいなんですか?」コロがたずねた。

「あなたにとって住むとはどういうことなのかによりますね」カティーナがこたえた。

「寝るという意味なら、そうですね。みんなこの家で寝ています」トレサは立ち上がった。同じように椅子の後ろを通ってキッチンへ向かったが、アデルの近くにさしかかると、犬のすぐそばで身をかがめた。「紙切れを持ってきておくれ。さあ。なんでもかまわないから」

 コロがうしろを見ると、トレサが手のひらを広げて立ち上がるのが見えた。手のひらの紙ナプキンの上でイモムシが動いている。トレサはそれをみんなに見せてまわった。

「この家は虫だらけだ」

「窓から逃がして」レベッカが言った。

「純粋なたんぱく質じゃない。今日のサラダ用に取っておいて」

 サラダのことを言ったのはマグダレナだった。トレサはマグダレナの後ろで立ち止まると手のひらを返し、マグダレナの頭に押さえつけ、円を描くようにこすりつけた。毛根すべてにつぶれたイモムシを染みこませようとするように。マグダレナはじっとしていた。

「これでおまえも純粋なたんぱく質が取れたじゃないか」

「殺さなくてもよかったのに……」レベッカが言った。

「レベッカは殺したくないの。昆虫も爬虫類も」

「殺すのなんて大嫌い」レベッカが認めた。「イモムシは何もしてないじゃない」

「何もしてなくても死ぬことはあります」トレサはキッチンの扉の向こうへ消えた。

「何も召し上がってないじゃないですか」カティーナが体を後ろに反らし、背もたれに寄りかかった。「ゆっくり朝食が取れるように、おひとりにしましょうか?」

「わたしの車ですが……」

「アデルとわたしは勉強しないといけないんです。ねぇ、アデル」

「ガソリンがなくなってしまって、覚えてらっしゃいます? 行かなくちゃならないんです。車に戻って、もう出発しないと」

「でもわたしたちには授業があるんです。何時間か待てませんか? お風呂にでも入ったらいかがでしょう? それか散歩……。散歩にいらしたらどうですか? 湖までの道はそれは素晴らしいんですよ。レベッカに一緒に行くように頼んでください。マグダレナも。きっと喜んでお供しますよ。ほんの数時間だけですから」

 マグダレナはきれいな紙ナプキンで髪を拭いていた。ゴシゴシと。

「洗わなくちゃだめよ」レベッカがささやいた。

 カティーナが椅子から立ち上がると、アデルも続いた。

「お好きなようになさってください。でも食べなきゃいけません。元気が出ますよ」

 ふたりはテーブルの上の自分の皿のわきに紙ナプキンを置き、居間を通って玄関に面した廊下へ向かった。娘のひとりを雌鶏と交換した家族の話をしながら出て行った。

 

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