ワシントン・アーヴィング(1783年ニューヨーク生、1859年サニーサイド没)は北米文学初期の散文家のひとり。作品自体の質より、むしろ作品の持つ特徴によって有名であり、しかもその特徴は、彼が何をしたかではなく、彼がそれをおこなった最初の人物であることに由来する。北米文学に特徴的な短編小説を初めて書いたのは彼だ。また、いわば文学という形を取った武器ともいえるユーモア小説、バーレスク様式の風刺小説を編み出したのも彼であり、さらに彼はアメリカ流の口語文体も作りあげ、これらはのちにマーク・トウェインやヘミングウェイにも影響を与える。アーヴィングは細部までこだわって描写を楽しみ、気取りのない平易な表現を用いた。歴史を愛する完璧なロマン主義者で、新生国家の市民であるせいか、ヨーロッパ探索に情熱を燃やし、とりわけスペインの異国情緒や独特の美しい風景に惹かれて、汲みつくせぬインスピレーションの源泉とした。