1615年のマドリード。バルセロナから到着したばかりの若者が、迷路のように入り組んだ凍てつく人けのない道を歩き回り、ようやく目的地にたどりついた。死期が近いひとりの老人が毎日通うみすぼらしい居酒屋だ。老人はミゲル・デ・セルバンテス、『ドン・キホーテ』の生みの親だ。若者は作家セルバンテスに謎めいた小さな古い櫃を渡すという使命をおびていた。櫃と引き換えに、セルバンテスは40年前の出来事を語らねばならない。亡命の途中でバルセロナに避難したおたずね者の郷士だった時のことを。このような書き出しで、セルバンテスの生涯で最も謎の多い時期のことが語られる。オスマン帝国の怒りにふれ、命をおびやかされてバルセロナで過ごした6日間。セルバンテスのその後の人生をすっかり変えることになった劇的な6日間だ。