ノスタルジーは、戦いを挑むべき蜃気楼だと著者は書く。ノスタルジーは過去を理想化し、実際はなかったものの形をとらせようと絶えず私たちに迫ってくるからだ。だから。本書は、作者マソリベルによって再構築された不穏な記憶の書だ。盲人の語りはストーリーの形をとらず、地滑りのようになだれ落ちてくる活き活きとしたイメージ群だ。思い出や幻想、胸を引き裂く場面。時間のない無為の中にいる男は、死の世界から語るように、その明晰な頭に去来するイメージをくりだしていく。作者は本書において、知人と敵、求めた愛と求めざる愛をたしなめ、時の経過や、迫りくる旅の終点を受け入れることを伝えている。