■概要
〈クールな男の子・女の子〉シリーズの第3巻。心とからだが変化しはじめる10歳ごろからの男の子に寄り添う本書には、思春期を安全・安心に過ごすためのたくさんのヒントが収められている。自分のからだに何が起きているんだろう、これって普通のことなのかな、こんなときどうすればいいの、といった思春期の男の子ならだれもが知りたいことが、親しみやすい口調で科学的に解説されている。
オールカラーで全ページにイラストが入っており、本文のほかに〈覚えておいて〉〈知ってた?〉〈アダルト・トランスレーター〉というユニークな囲み記事がはさまれている。
からだの発達に関することのみならず、衛生的なケアの仕方、感情の認識とコントロール、アイデンティティの発見、他者との関わり方について解説した本書は、教師や心理士などからも絶大な支持を得ている。
2020年末の刊行後、今日まで平積みにしている書店も多く、すでに3刷を記録している。
■目次
はじめに
第1部 最初のきざし
1章 でも、これってぜんぶ、ふつう?
2章 なんで、からだが変化するの?
第2部 ひとつずつ見ていこう
3章 発達の段階
4章 前を向いて、顔を上げよう
5章 気をつけて、もうすぐティーンエイジャー!
6章 からだのにおいと向きあおう
第3部 ものすごい変化
7章 そこらじゅうに毛が!
8章 ぼくの声、どうしちゃったの?
9章 下半身で、なにが起こってる?
第4部 よい習慣
10章 バランスよく食べる
11章 からだを動かして、たっぷり寝る
12章 アルコール、タバコ、ドラッグは、ノー
第5部 目に見えない変化
13章 ぼくになにが起きてるの?
14章 感情のバイク:運転マニュアル
15章 どんな気分?
第6部 自分らしさを見つける
16章 ぼくは、だれ?
17章 どんなときも、自分らしくいよう
18章 社会の圧力
おわりに
■内容
第1部 最初のきざし
からだのにおいが変わったり、汗をたくさんかくようになったり、前よりどんくさくなったり、肩幅が広くなったり……。きみは、自分のからだの変化にとまどっているかもしれない。あるいは、まだなんの変化も感じていないかもしれない。でも、心配はいらない。これらはすべて、いたってふつうのことだし、変化には個人差がある。10歳から14歳は、子どもから大人になる思春期の入り口だ。この時期に変化するのは、からだだけじゃない。脳も変化している。思春期に入り、脳の下垂体から卵胞刺激ホルモンと黄体形成ホルモンが分泌されると精巣が刺激され、男性ホルモンがつくられる。すると、きみの全身でお祭り騒ぎが巻き起こるというわけだ。
第2部 ひとつずつ見ていこう
発達には大きく分けて5つの段階がある。
第1段階:10歳ごろ。背が伸びて体重が増える。
第2段階:9歳から14歳ごろ。陰毛が生えはじめ、精巣が大きくなり、腕や脚より先に手と足が成長する。
第3段階:10歳から14歳ごろ。ぐっとからだが成長し、声変わりがはじまり、筋肉がたくましくなる。ペニスが大きくなり、陰毛が増える。
第4段階:11歳から16歳ごろ。鼻とあごが成長し、うっすらとひげが生えはじめる。
第5段階:12歳から17歳ごろ。ペニスと精巣の発達が終わる。のどぼとけが目立つようになる。
思春期の子どもたちの最大の悩み、ニキビについては、メカニズムを知って、上手につきあうことが大切。歯のお手入れと定期健診も忘れずに。
思春期のもうひとつの特徴は、動きがにぶくなったり、からだを操りにくくなることだ。からだの成長スピードは部位によってちがうのだから、無理もない。いずれ全体のバランスがとれるときがくる。それまでは、どこかが痛くなったり、どうしようもなく眠くなったりするものだ。思春期には汗の量も増える。これは汗をつくる汗腺が発達するためだ。
第3部 ものすごい変化
生殖器が発達すると、からだじゅうに毛が生えて、声変わりがはじまる。急な変化に驚くかもしれないけれど、心配せずにこの変化を楽しもう!
まず、陰毛が生え、それからわきの下、つづいて腕や脚にも毛が生えてくる。ひげは、はじめはうっすら生えてきて、やがてかたい毛になる。でも、それだけでは終わらない。胸やほかの場所にも生えてくる人もいる。体毛の濃い、薄いは、遺伝によるものだ。
からだだけではなく、声も変化する。喉頭の成長にともない声帯が大きくなるため、声が低くなる。喉頭の成長は女の子より男の子のほうが著しく、男の子はのどぼとけが前の方に出てくる。
つぎに下半身の発達について。まず、精巣が成長し、その1年後ぐらいにペニスが大きくなりはじめる。生殖器の成長は18歳から19歳ぐらいまでつづく。生殖器は外側と内側のふたつに分けられる。からだの外側にあるのは、ペニスと陰嚢。内側にあるのは、精巣、精巣上体、精管、精嚢、射精管、前立腺、尿道。生殖器はとてもデリケートなので、清潔にしておこう。そして、強い衝撃を避けること。スポーツによっては、プロテクターなどをつけて守ってあげよう。それから、きつくなったパンツやズボンでしめつけることのないように注意しよう。知らない間に勃起していたり、寝ている間に射精した経験があるかもしれない。ない場合は、これから経験するだろう。これらはすべてふつうのことで、きみの生殖器がきちんと成長している証だ。
第4部 よい習慣
毎日の食事は、からだのガソリンだ。思春期のきみは、たくさんの、しかも良質な燃料を必要としている。味つけが濃かったり、砂糖や油の多いものを食べ過ぎないように注意して、バランスのよい食事をとろう。からだは、一人ひとりちがう。パーフェクトな体形なんてないし、理想体重もない。
からだの発達には、スポーツと休息も欠かせない。からだを動かすと、エンドルフィンという幸せを感じるホルモンが分泌される。記憶力や集中力もアップする。病気にかかりにくくなるし、なによりスポーツは楽しい。自分に合ったスポーツが見つかっていないのなら、いろいろなスポーツを試してみよう。休息もスポーツとおなじように大切だ。思春期のきみのからだは1日9時間の睡眠を必要としている。
自分のからだは自分で守らなければならない。だから、からだに害のあるものには「ノー」と言えるようにしよう。アルコールは、脳と神経細胞の発達に直接影響する。アルコールを飲むと、記憶があいまいになったり、筋肉の痛みを感じたり、呼吸や消化の働きが悪くなる。タバコは、呼吸器の病気や癌を引き起こしたり、不妊症の原因になったりする。肌に悪いし、スポーツのパフォーマンスも落ちる。マリファナ、ハシシ、コカイン、ヘロインなどのドラッグは、とても危険だ。ドラッグは、からだも心も壊してしまう恐ろしいものだ。
第5部 目に見えない変化
はっきりとした理由もなく、気分がころころ変わる。これは思春期には、よくあること。ホルモンやからだの変化が、感情にも影響するからだ。おなじように、神経細胞も発達するから、考え方が大人っぽくなってくる。専門家はこれを〈認知発達〉と呼ぶ。からだも心も急速に発達しているんだから、これまでに経験したことのない感覚に陥るのも当然だ。大切なのは、自分の感情を知り、コントロールすること。感情の基本は4つ、怒り、恐れ、悲しみ、喜びだ。感情はどこからくるのだろうか? からだの外からの情報を受け取った脳は、それに対してどう反応するか、からだに命令を出す。たとえば、誰かが親友の悪口を言っているのを聞いたら、いやな気分になる。この感情は、脳の扁桃体という場所から瞬時に出される命令によって引き起こされる。感情のおかげで、わたしたちは目の前の出来事を評価したり、その意味を知ることができる。感情とは、どう行動するか、どの道を選択すべきかを教えてくれる、いわば個人のGPSのようなものだ。
感情というバイクをうまく乗りこなすには、ブレーキの場所を知らなくてはならない。バイクが暴走しそうになったら、10まで数えてゆっくりと深呼吸をしたり、スポーツをしたり、好きなことをするといい。そして、ネガティブな思考にとりつかれそうになったときには、深みにはまっていく前にネガティブ思考をストップさせよう。思春期には、臆病になったり、恥ずかしさや不安を感じたり、自尊心が低くなってしまうこともある。それらの感情は、よい結果をもたらさない。そんなときは、自分のポジティブな面を見つめてみよう。
第6部 自分らしさを見つける
自分はどんな人間で、将来は何になりたいんだろう。思春期のきみたちは、自分のアイデンティティを確立したいと強く望んでいるかもしれない。でも、あせることはない。いろいろなことに挑戦してみよう。自分では気づかなかった一面を知り、あっと驚くかもしれない。自分らしくいることは、必ずしもいつもおなじふるまいをするってことじゃない。時と場合によって、ふさわしい行動や態度をとる力を〈心の知能指数〉と呼ぶ。この力を高めると、いざこざがへり、他人とうまくやっていくことができるようになる。思春期には、これまでとちがったことが気になったり、新しい趣味を発見したりするだろう。すると、新しい仲間ができ、以前の友だちとは共通の話題が少なくなるかもしれない。でも、それは自然なこと。自分を責めたりしないように。
自分らしさを探しているきみは、まわりの評価も気になるだろう。そのため、やりたいことを我慢したり、やりたくないことを無理にやったりすることがある。これを〈社会的圧力〉と呼ぶ。社会的圧力をまったく感じずにいるのは不可能だ。うまくバランスを取って、自分だけの空間をもつことが大切だ。誰にも邪魔されず、圧力を感じることなく、自分が本当に望んでいることは何かを考えよう。性別にとらわれて、自分の世界をせばめることはない。社会からの圧力に邪魔されることなく、好きな自分になろう。
■所感・評価
「大人になることは、ゲームでひとつ上のレベルにいくみたいに、クールでエキサイティングな冒険だ」本書は少年たちにそう語りかける。フレンドリーな語り口でありながら、内容は非常にしっかりしている。イラストや図が多用されており、飽きずに楽しく読めるのはもちろん、内容を正しく理解する助けにもなっている。また、発達のチェックリストやクイズ、感情メーターなどのアクティビティも盛りこまれている。
囲み記事〈アダルト・トランスレーター〉は、なかなかユニークな視点だ。思春期の子どもたちに大人が何気なく言う言葉を取りあげて、その真意や背景などを解説している。大人の言うことを素直に聞けなかったり、ときにはイラっとしてしまう男の子たちに、ぜひ読んでもらいたい。後半は生活習慣や感情、自分らしさについて書かれており、自分の感情を理解し、自尊心を向上させるような内容になっている。感情コントロール、自分探し、他人との共生など、この時期の子どもたちの多くが抱える問題への具体的な解決方法も記されている。
発達過程、生殖器、食べ物、衛生、生活習慣、感情から、アルコール、タバコ、ドラッグにいたるまで、思春期の子どもたちに知っておいてほしい情報が広く網羅されている。そこが本書の「売り」だ。だが、幅が広いぶん、内容が薄い項目もあり、少し物足りなさを感じる読者もいるかもしれない。
日本にも思春期の発達や性をテーマにした本はたくさんあるが、思春期の子どもとのかかわり方を説くハウツー本など、大人に向けて書かれたものが圧倒的に多い。子どもを対象とした本もあるが、男の子向けより女の子向けのほうが多く刊行されているように思う。『マンガでわかるオトコの子の「性 」』(合同出版)、『おれたちロケット少年』(子どもの未来社)は数少ない男の子向けの本だが、いずれもマンガのため本書とは趣が異なる。つまり、類書は非常に少ないと考えられる。その意味でも、本書は日本で刊行する意義が十分にあるだろう。
個人的な見解だが、本書のイラストはあまり日本人好みではないかもしれない。イラストを入れる箇所や分量はそのままに、日本人に受け入れやすいイラストに変えてみるのも一案だろう。
■試訳(15~17ページ)
1章 でも、これってぜんぶ、ふつう?
きみは、自分のにおいが変わったと感じているかもしれない。からだを動かしたり、頭を使ったりすると、汗をたくさんかくようにもなった。もしかすると、下半身にうっすら毛が生えはじめているかもしれない。あるいは、前より動きがにぶくなったと感じていたり、からだがちぐはぐに動いてしまうときもあるだろう。肩幅が急に広くなり、前よりたくましくなった筋肉でなにか試してみたい気分かもしれない。自分のからだが自分のものじゃないみたいで、混乱しているってこともあるだろう。
反対に、まだなんの変化もないという人もいるだろう。それなのに、いつもより眠かったり、すぐにイラッときたりするかもしれない。笑っていたかと思えば、理由もなく一瞬で泣きだしたり。なぜだかわからないけどなんか変な気分、と感じているかもしれない。
これってぜんぶ、ふつうなの? と、きみは疑問に思っているだろう。答えはイエス。いたって、ふつうのことだ。
からだに、なにが起きている?
きみが10歳から14歳なら(だいたいの年齢だから、多少前後してもOK!)、きみが感じている変化は、どれもふつうのことだ。それに、いま起きている変化だけじゃなくて、これからもっとたくさんの変化がおとずれる。
きみのからだは、化学物質が大騒ぎするホルモンのフェスティバル! からだが大きく変化している最中だ。きみは、ものすごい勢いで成長する思春期を迎え、子どもから青年になろうとしている。その数年後には、もう大人だ。
きみはいま、ひとつ上のレベルに行こうとしているんだ。そう、ビデオゲームみたいに! すべてが、はじめて経験することばかりだ。おめでとう、ついにやったね! とまどうのも無理はない。そのうちに、このレベルの攻略法がわかってきて、チャンピオンみたいにうまくやれるさ。めちゃくちゃ楽しいよ。
ところで、変化しているのは、からだ(とくに生殖器)だけじゃない。脳だって変化している。いろいろな気持ちや感情がわきおこり、これまでとはちがう気分になったり、外見だって変わる。思春期には、人間的にも成長する。自分らしさをみがいて、まわりの人との新しい関わり方を学んでいくんだ。
〈アダルト・トランスレーター〉
大人たちから「やっかい」だとか「難しい年ごろ」なんて言われても、悪くとらないでほしい。なぜって、かつて自分も「やっかい」だった大人たちは、愛情をこめてきみをそう呼んでいるんだからね。つまりきみは、ティーンエイジャーの仲間入りをしたってわけ。それって、すごく楽しいことなんだ。
〈覚えておいて〉
大切なのは、いまきみに起こっているのは、ふつうのことなんだと理解すること。この発達の時期を受け入れて、思うぞんぶん満喫しよう。
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〈クールな男の子・女の子〉シリーズは全3巻。第1巻と第2巻は女の子向けで第3巻が男の子向け。
第1巻『君のような女の子のためのクールなガイドブック』では女の子のからだの変化、生殖器、生活習慣を取りあげ、第2巻『感情のシェイク』は女の子の心、感情、アイデンティティを扱う。第1巻と第2巻の内容を男の子向けに1冊にコンパクトにまとめたものが第3巻『発達っていい感じ!』となっている。
『君のような女の子のためのクールなガイドブック』(4刷)
■目次
第1部 わたしに、なにが起きてるの? 目に見えるものと、見えないもの
1章 前とはちがうわたし、これからなにが起こるのかな
2章 どうして、わたしのからだは変化しているの?
3章 それで、どうすればいい?
第2部 ひとつずつ見ていこう
4章 顔の中にある3つの〈基本ポイント〉
5章 ニキビができた、サイテー!
6章 わあ、からだに毛が!
7章 すごい勢いで成長するからだ
8章 恥ずかしさなんて、ポイッ!
第3部 ものすごい変化
9章 わたしの胸、どうしたの?
10章 初ブラジャー
11章 生殖器を知ろう
12章 月経について知っておくべきこと
第4部 よい習慣
13章 食べもの
14章 衛生
15章 休息
16章 スポーツは楽しい
17章 アルコール、タバコ、ドラッグには「いいえ、けっこうです」
『感情のシェイク』(3刷)
■目次
第1部 わたしに、なにが起きている? 目に見えるものと、見えないもの
1章 どうして、こうなるの?
2章 感情って、なに?
3章 感情はなんのため?
第2部 感情を知り、コントロールする
4章 感情はどこで生まれるの?
5章 感情はからだをめぐる
6章 感情をコントロールする
第3部 内面に飛びこむ
7章 しつこい心の声
8章 ネガティブの連鎖
9章 おばけを追い払う
10章 決断するには、ポジティブシンキング
第4部 自分らしさを見つける
11章 わたしは、だれ?
12章 感情のリュック
13章 ぶれずに信じる
第5部 感情を現実に合わせる
14章 どんな気分?
15章 自分の道を探そう
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