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自分が死んだと分かる32の方法
著者: グスマン・ロペス・バヤリ Guzmán López Bayarri
出版社: コリマ Kolima
出版年: 2013年
ページ数: 218頁
読者対象: 一般(特に仕事や子育てに忙しい世代)
レポート作成: 村田名津子
概要
本書は生きながら死んでいる人たちについて書かれている。不満ばかりで、冒険しない、決定を怖れ、やりたいことさえわからず、流されるままに毎日を過ごしている人たち。まさにゾンビたちである。こうした人たちは決して特別ではなく、私たちのなかにも潜んでいる。あなたは「生きる屍」になっていませんか? 本書は、あなたの「死んでいるかどうか」のバロメータになってくれるだろう。測った数値で自分の人生度を見極め、人生の目的に向かって歩きだそう。生きながら死んでいる人にならないように。
目次
序章 スペイン国営放送(TVE)の解説者、及びシナリオライターであるギジェルモ・スメルス氏による序文
イントロダクション
第1章 ハッカー脳:死ぬ前にしたいことを1分以内に3つあげられない人
第2章 ゴムのアヒル:流れされるままの人
第3章 単なるアメーバ:常に正しい人
第4章 快適な死体:思い切って行動しない人
第5章 人生の潤滑油:ユーモアのない人
第6章 お休みしている神経細胞:疑わない人
第7章 マーティ・マクフライ* シンドローム:今を生きてない人
(*マーティ・マクフライは映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の主人公)
第8章 嘆きの部屋:人生を悲しみながら送る人
第9章 親密な敵:敵がいない人
第10章 本当の時間:好きなことより嫌いなことをして生きる人
第11章 ハッピーワールド:悲しみに感謝しないで生きる人
第12章 2つのコード:バーチャルな世界だけで生きる人
第13章 囚人のジレンマ:すべてやり終えて空虚な人
第14章 島の中の人生:人に居場所を把握されている人
第15章 社会的大災難:いつも助言に従う人
第16章 ゲーム・オーバー:遊ばない人
第17章 眠れる獅子:情熱なく暮らす人
第18章 恐怖のウイルス:こわごわ生きる人
第19章 内なる警報:緊急性と重要性を混同してしまっている人
第20章 優秀な民族:動物としての本能を失っている人
第21章 永遠の老い:すべてにおいてもう遅いと思う人
第22章 自己満足のループ:感謝しない人
第23章 ブーメラン効果:不平を言うのが生き方の人
第24章 完全な機械:間違いを認めない人
第25章 覆面の理論:道理に合わないことを正当化する人
第26章 破れた夢のリュック:他人を通して生きている人
第27章 世界の終わり:誰も信用しない人
第28章 最も小さいことの重要性:趣味を軽んじる人
第29章 奴隷2.0:自由じゃない人
第30章 映画:思い出の中に生きる人
第31章 メンタルダイエット:脳に栄養を与えない人
第32章 首なし鳥:頭でっかちな人
エピローグ
内容
「生きながら死んでいる」とは、「人生を前向きに生きていない人」のことである。本書ではそのような傾向を持つ32のタイプを扱っている。1章に1タイプ、計32章で構成されている。
本書の目指すところは、人が本来持っている生きる目的や意味を人々に気づかせることである。著者はイントロダクションで、多くの人が埋葬されるまで日々のルーティンに追われ、意味のある人生を過ごしていないことを指摘する。その理由は、それらの人々は、意味のある人生を送れるのは運のいいわずかな人だけで、自分がこのように送れるとは思っていないからだという。すなわち、端から諦めているのだ。
では、「生きながら死んでいる」人々に、挑戦できると気づかせるためにはどのようにしたらよいのだろうか。著者は治療法がないと断言する。というのも、著者のスタンスは、人のアドバイスをいくら聞いても、自分で気づかなければ人は変われないというところにあるからだ。したがって、気づきの方法は、まず第1に本書にある32の「生きながら死んでいる」リストから当てはまるタイプを見つけること。第2に自分の振る舞いについて見直すこと。そして最後にそれぞれが自分なりの解決法を見出すことである。
では、「生きながら死んでいる」32のタイプのうち、3つを挙げてみよう。
1)9章 親密な敵:敵がいない人
あなたには敵がいるか? もしいないのなら、あなたは死に向かっているかもしれない。敵、すなわちライバルは、あなたの思考や行動に反対したり、あなたの過ちや失言を利用して、死ぬまであなたと競い合う人だ。しかし、ライバルはあなたを痛めつける一方で、あなたの長所を引き出してくれることもあるかもしれない。歴史上のライバルを挙げるなら、ピカソとマチス、シェイクスピアとロバート・グリーン。いずれも互いに相手を羨むことから力を得て偉大になった人物だ。現代ではアップルとマイクロソフト、レアル・マドリードとバルサだ。このように敵は私たちを成長させてくれる。ありがとう、敵よ。あなたがいることで私たちの人生は充実したものになる。
2)15章 社会的大災難:いつも助言に従う人
世の中は助言したがる人で溢れている。いたるところ助言だらけだ。書店では「危機から脱する10の方法」といった本が山積みである。まさに社会的災難とでも言おうか。このウイルスから身を守るにはアジア人の使っているマスクも役に立たない。一方、助言は本当に人の助けになっているのか? そもそも他人を助けるなんてできるのだろうか? できないだろう。自らの手でゴミ箱を漁らなければ価値あるものは得られないのだ。良かれと思ってされる助言だが、怖いことに私たちを殺すこともある。すべては受け手の選択次第で、助言はバンパイアにもなり、あなたの人生を吸い尽くしてしまうこともある。
3)21章 永遠の老い:すべてにおいてもう遅いと思う人
私たちは「もうこんな歳だからできない」といったフレーズを使ったり聞いたりしたことはないだろうか。老人から発せられるのならまだしも、長い学生生活を送った20代後半の若者の「何かをするには遅すぎる」とか、40歳前の女性から「こんな歳でもう恋愛なんてできない」といった言葉には驚かされる。もしや私たちは大人になるアクセルを踏みすぎて、したいこともできずに老人になってしまったのか。しかし、歳を言い訳にして行動しないのはただの臆病者でしかない。
最後のエピローグで、著者は読者に対し、自分がいかに充実した人生を生きていないかよくわかったのではないかと問いかける。そういう著者も当てはまったタイプがあったという。そしてたくさん心当たりがある読者に対しては、ここでは治療法は教えない。ぜひ、各自試行錯誤し自分に合った脱出方法を見つけてほしいと励ましている。
所感・評価
本書は、赤、白、黒を使った斬新なデザインの表紙で、しかも「生きながら死んでいる」例を集めた啓発本である。日本では、啓発本というと「幸せになる」や「○○になれる」といったポジティブになろうという前向きなイメージがある。したがって、「こうなってはいけない」という反面教師となるタイプを挙げる啓発本はあまり見たことがない。しかし、本書に挙げられている32タイプを見ていくと、子供に自分の夢を押し付ける人や絶対に自分の主張を曲げない人など、身近にいそうな人ばかりで共感できるし、少し皮肉っぽいがウイットとユーモアに富んだ語り口は読みやすい。さらに、著者の鋭い人間観察にはしばしば納得させられた。
また、啓発本としての手法も新鮮である。他人のアドバイスに頼らず自分で気づいて変わるというスタンスである。日本では、古典や成功者によるアドバイス型の啓発本が主流であったが、昨年ベストセラーになった『嫌われる勇気』やラグビーの五郎丸氏が推薦したことで注目された『自分の小さな「箱」から脱出する方法』は、本書と同様に、自ら変わらなければ状況は変わらないという自発型なので、本書も日本の読者に受け入れられる可能性が十分にあると思う。
では、実用書としての実力はどれほどだろうか。そこで、私は自ら「死んでいるかどうか」測ってみた。私は50代前半で、どちらかというと日頃から前向きで人に流されないタイプであるが、19章の「緊急性と重要性を混同してしまっている人」や21章の「すべてにおいてもう遅いと思う人」、29章の「自由じゃない人」に該当した。意外にも、忙しさにかまけてやりたいことができずに二の足を踏んでいる自分を発見したのである。著者の狙いはこのように読者自身に日頃の行動を省みさせ、本来の生きる目標を再確認させるところにあるのだろう。
ただし、本書は「死んでいる」状態を生き返らせる解決法についての記述がない。その上、章によっては話の展開が分かりにくく、結論が予想できないものもあり、早く変わりたいと思っている読者には物足りなかったり、イライラさせられるかもしれない。
対象となる読者層は、仕事と子育てで多忙な世代で男女を問わない。人物像を表わす例として本書の中には、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」や「マトリックス」、「シックスセンス」などの映画や、ポリスやピンク・フロイド、ジョン・レノンといったロック歌手の歌詞が引用されているが、1970年代、80年代に流行したものも多く同世代を過ごした50~60代も楽しめるだろう。ユニークな発想で自分の人生に対する気づきの手伝いをしてくれる本書は、普通の啓発本を読んでも何も変わらないと諦めている人々に受け入れられると確信する。
【著者の経歴】
大学では心理学専攻。2005年に大学卒業以降、イノベーションとクリエイティブ・シンキング・アドバイザーとして企業、及び個人の人材育成を続けている。その他、人材育成講師、企業家、作家、心理学者、音楽家で旅行家の顔を持つ。アディダス、サンタンデール銀行など、スペイン内外の大手企業を多く顧客に持つなどがある。
本書以外の著作は以下の通り。
『セレンディピティ(Serendipity)』(Alienta Editorial社、2009)
『起業家のジュークボックス(El Jukebox del emprendedor)』(Actualia Editorial社、2012)
『発見能力のある子供たち、創造力のある子供たち(Niños exploradores, niños creativo)』(Kolima社、2015)
【タイトル案】
タイトル:『自分が死んでいるとわかる32の方法』
帯:もしかしたら、あなたは死んでいるかも。
「死んでいる」32のリストで自分が死んでいないかチェックしてみよう。
そして、誰かを頼らず自分で人生の質を見直そう。
【翻訳、及び刊行する際の注意点】
・スペイン語の文章は、著者が自論を熱く語る形式であるため、口語調だが観念的な箇所が少なくない。そのため翻訳するには力量が必要と感じた。
・第28章に、悪人も趣味を持っている例として日本人の記述があった。例として挙げられたのは、2011年に女子小学生の唾液を収集したことで逮捕された男性についてである。
試訳 (p.31~32)
第2章 ゴムのアヒル
◆遊ぼう
ほんの少しの間でいいから、おもちゃになったと想像してごらん。お風呂にいる黄色いゴムのアヒルのおもちゃになってみよう。想像力を膨らませば、あなたはどこに連れていかれるかわかるだろう。一介の想像は千の言葉よりも有効だと言うでしょ?
あなたが置かれている状況は次のようだ。川に投げ込まれたばかり。流れはゆるやかにあなたを引きずってゆく。あなたはひとりじゃない。周りにはあなたによく似たアヒルたちがいる。皆同じ方向に流されていっている。ゆっくりと。誰も声を発せず、皆異常なくらい自然に流されている。あらかじめ計画されているかのように。あなたは横を見る。反対側も。さらにあなたと同じように流されている仲間たちを見てみる。あなたはそこで何が起こっているかよくわからない。でも、皆同じ方向に流されているから何もかもうまく行っているのだろう。
さらに、全体の中で自分がどうなっているかわからないが、ここから脱しようとしても何もできなさそうだ。ただ、ゆるやかに淡々と止まることなく前に向かって流され続けている。そしてこんな状況のまま、数分、数時間、数日が過ぎ、時間はどんどん経過する。あなたは自分の力ではどうにもならないことにイライラしてきた。そんな状態、面白くもなんともない。人の意向に流されるがままだなんて。
◆流され続け・・・
危険はなさそうだ。少なくとも不満は聞こえてこない。皆不審そうに互いに顔を見合わせている。なぜならこの先どこに連れて行かれるか誰もわからないのだから。でも、数分経つと慣れてきた。あなたは流され続け、もはやイライラもしなくなってきた。その上、なんだか、神秘的な力に押し流されていることが気持ちよくさえなってきた。イタリア人が言っているように「楽で楽しい」だ。皆心地よいリズムに乗っている。そして分岐点がやってきた。腰をちょっと動かすだけで、どちらに行くかおのずと決まってくる。すべての問題もこうなればいいのに。
もしやいい人生を見つけちゃったのかもとあなたはつぶやく。古代のアリストテレスや現代の哲学者サバテールも触れているいい人生のことだ。当初激しく感じていた疑問や不信感や恐れは、少しずつ、誰にも気づかれないくらいゆっくりと消えていく。そしてついに、チベットの真の化身ラマの頭の中のように、思考は停止しすべての心配事が消えた。その一方で、川は自らの任務(今や「任務」になってしまった)をこなしている。そしてあなたは人生が過ぎていくのを傍観するだけだ。ただじっと見つめているだけだ。