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テラネオ
■タイトル テラネオ Terráneo
■著者 マリノ・アモディオ Marino Amodio
■出版社 ルイス・ビーベス Luis Vives
■出版年 2017年
■ページ数 52ページ
■言語 スペイン語
■読者対象 小学校高学年より
■ジャンル 児童書・YA
■レポート作成 今木照美
■概要 (背表紙より)
地中海の起源に関する神話物語。地中海が接する村々のつながり、海岸を抱く架空の都市と、そこにかつて存在していたであろう住民たち、そして今日そこに住む人たちの精神をめぐる軌跡についての寓話。
■あらすじ
今日地中海に面している多くの国々は、その昔大海に囲まれたテラネオという大きなひとつの島だった。住民たちは目の前に広がる果てしない海に大きな恐怖を感じると同時に、ただならぬ好奇心を抱いていた。海に面した地域は、大量の水から陸地を守るために個性的な町を建設した。だが、あの海は何を隠しているのだろうか? 地域を問わず島民全員がこの疑問を共有していた。謎を解き明かそうと各地域の島民がその気質に応じた様々な試みをおこなった。しかし答えを得ることはできなかった。やがて甚大な恐怖と好奇心にこらえきれなくなった人々が最後に辿り着いた考えは海の水を空にすることだった。こうして海はひとつになって島を占領し、島は散り散りになって海があった場所に移動した。
以下はテラネオに建設された町。
ジブラルタル:西の沿岸に位置した町で大きな顔の形をしている。全ての島民が少なくとも一度は訪れ、水平線の彼方に落ちる夕日を眺めてはその向こうにあるものに思いを馳せる。
スキュラカリブディス:イオニアとティレニアという二つの町を結ぶ地峡を守るために作られた町。対照的に配置された全く同じ人型の二つの建設物が住民たちの海に対する憧れと恐怖心を表している。
ベネチア:海の中に住むことを試みた人々によって作られた町。道路はなく、大きな魚を模した形の町に立ち並ぶ家々には海水の引き込み口がある。
カイロ:大きな手の形をした町。4本の指を天に向けて突き出す姿は海の中にある秘密を空から覗き見たいという住民たちの思いが込められている。
アテネ:陸地と海の出会いを表す半魚人の形をした町。住民たちの祈りが柱となり最も高い場所にある宮殿の土台を支えている。住民は、己の願いは皆の希望に繋がるとの思いで祈りに勤しむ。
イスタンブール:3体の女人の形をした町。全ての島民はここで生まれ、この地から吹き始めた東風に促されるように島を開拓していったとの言い伝えがある。
■所感・評価
地中海の誕生を、元々大きな島であったところに海水が入り込んで生まれたのだというユニークな説明で綴る物語。
本を手に取り、まず目に飛び込んでくるのは独創性に溢れた印象的なイラスト。ページをめくるたびに次はどんな絵だろうかとわくわくするほどだ。大胆な構図や力強いラインとは対照的に様々な形にはめ込まれた建築物はち密に描かれていて美しい。落ち着いた色使いで全体をシックにまとめているところも好感が持てる。イタリアの建築家ビンチェンツォ・デル・ヴェッキオの手によるものだが、建築家と聞いてなるほどと頷ける絵だ。同じくイタリアの建築家マリノ・アモディオによる文は、お伽噺を語りかけるように柔らか。少ない言葉で詩のような心地よいリズムを刻みながら進行していく。
物語自体は、大きな島が例えば神々の力によって無数に分断され海に散らばるというようなありがちな話とは少々異なる。この架空の島テラネオでは、住民たち自身による海の秘密に対しての探求心が高じて海を空にしてしまい、その結果陸地と海水の場所が入れ替わって現在の地中海が誕生するというもので、発想が面白い。また登場する町々もスキュラカリブディス以外は実在する都市の名前で、そこで行われる取り組みや都市の成り立ちが現在まで続くそれぞれの特質をうまく捉えていると言えよう。本文とは別に各都市を囲み枠で紹介しているが、イラストと相まって想像を膨らませてくれる。
児童書ではあるが、日本の子供たちにはあまり馴染みのない地域であることやイラストから考えると、一般受けは少々難しいと考える。寧ろ地中海やジブラルタル、ベネチア、カイロ、イスタンブールなどこの本に登場する都市は日本からの観光地としても人気で、最も興味を示すのは成人ではないかと思われる。そこでこの地域への関心と個性的なイラストから最近注目を浴びている大人向けの絵本として出版することをお勧めしたい。その場合は児童を意識して、試訳に使用した敬体よりも常体の方が適していると思われる。
■試訳(冒頭より)
その昔、地中海沿岸の国々はひとつに繋がっていました。
大海の中に浮かぶ大きな島の名はテラネオ。(テラネオ島の地図)
絶え間のない遠く長い旅。
多くの旅人が島の道を行き交います。
海辺の町の住民たちは、自分たちの海にいつも話しかけていました。
海から目を逸らすことができなかったのです。
ジブラルタル 島の西の沿岸を守るのは巨大な顔をした町です。 テラネオの目ともいえる両眼には島人全員の好奇心が宿っています。 島の誰もが少なくとも一生に一度は最西端のこの地を訪れます。 そして海に向かって立ちこの世界の最果てを眺めるのです。 日暮れ時、太陽が水平線の向こうに沈む様子を見守る人々は 最後の光がいつもよりもっと遠くを照らすようにと 期待に満ちた視線を交わします。 |