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Cara de pan

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■タイトルパン顔

Cara de pan

■著者サラ・メサ Sara Mesa

■出版社アナグラマ Anagrama

■出版年2018年

■ページ数144 ページ

■言語  スペイン語

■読者対象一般 

■ジャンル文学(海外文学)

■レポート作成 宇野和美

 

■概要

 公園で出会った、まもなく14歳の少女と50代の男性。学校になじめない少女と、社会に適合できない男性は、人目につかない公園の片隅に自分たちの居場所を見つけていく。だがやがて、そのあやうい空間は、良心的で常識ある人々の手で失われる。

 コントロールされ監視された現代社会の矛盾、正常さの中の異常さ、声なき者の声を、大人と子どもの端境期にいる思春期の少女の視点から、鋭く繊細に描きだす、スペイン新鋭女性作家の注目作。英独伊など、8ヶ国語で翻訳出版決定。

■おもな登場人物

カシ:まもなく14歳になる少女。学校を無断欠席している。

ビエホ:50代の男性。無職で鳥とニーナ・シモンが好き。

■あらすじ

第1部 公園(p.7-p.106)

 公園の生垣と木の間のスペースで、女の子が雑誌を読んでいる。そこに初老の男が現れる。スーツを着て、リュックを背負い、髪はぼさぼさ。なんの雑誌を読んでいるのかという話題から、男は自分が読むのは小鳥の雑誌だけだと言って話しはじめる。が、夢中で話し込んでいたかと思うと、途中でいきなり、つまらない話をして悪かったと慌てだし、そそくさと去っていく。

 だが、それ以来男は、いつも少女がいる、その場所にやってくるようになり、人目につかない公園の片隅で毎日会うようになる。少女はほぼ14歳、男は54歳。そのうちに、互いをカシ(スペイン語でcasi「ほぼ」の意味)、ビエホ(viejo「老人」の意)と呼びあうようになる。

 相手を気づかいつつ、躊躇しながら話題を投げかけ、ふたりは互いの過去や、人には言えない複雑な事情を少しずつ知っていく。

 カシは学校で、リーダー格のマルガというクラスメイトから「パン顔」とあだ名をつけられて、いじめにあうようになった。太っている、醜い自分へのコンプレックスがある。いじめのことを両親に話さないまま、今の学年になってから、学校に行かず公園で時間をつぶすようになった。緊急転校の書類を偽造して学校に提出して、欠席が親に発覚しないように計らった。学校では、グループ活動が苦痛だった。一人でいたいのに、どこかのグループに無理やり入れられ、いじめられる。公園から30分ほど離れたところにある住宅街の一戸建てに引っ越してきてから、9歳上の兄は大学院に行くために家を出て、孤立無援になった。両親は普通の親より年齢が高く、マルガからは「忘れられたころに、望まれずに生まれてきた子」と決めつけられる。兄の友だちに思いを寄せたこともあったが、すぐに失恋した。「適応に問題がある」として、スクールカウンセラーのもとに通ったことがあるが、カウンセラーが「離婚家庭」「認知障害」「社会的介入の必要性」「いじめ」などの言葉で生徒を一方的に分類し、決めつけて見ているのがわかって通わなくなる。公園にいるときに初潮を迎えた。

 ビエホは、鳥とニーナ・シモンが好きで、それらについてとても詳しい知識を持っている。姿や鳴き声から鳥を見分け、学術名を言えるし、ニーナ・シモンの英語の歌詞も覚えている。鳥類保護施設で働いていたが、今は無職で、服は夏冬に一着ずつのスーツしか持っていない。公園から歩いてすぐの10階建のマンションの9階に住んでいる。柵の外から小学校の子どもに声をかけたとき、近所の人の通報で警察につかまり、警告をうけたことがある。また、鳥類保護施設の同僚の女性に暴行を働いたとして逮捕され、一時期精神病院に入院し治療を受け、飲むと無気力になる薬を飲まされていた。家族はいない。祖父でもある父にかわいがってもらったが、母は罪の意識からビエホとかかわろうとしなかった。話し方に普通ではないところがあり、時に声が大きくなる。普段は穏やかだが気分に波があり、自分だけ除け者にされたと感じると、いきなり激昂するなど、態度が豹変することがある。

 他人が見たら、どう言われるかわからない関係。両親も世間も理解するはずのない関係。恋愛というのでもない。だが、ビエホとの関係がカシを支えている。

 カシが公園に通いはじめて、2、3ヶ月が過ぎる。季節が秋から冬へと変わり、戸外にいるのが不自然になり、公園にいづらくなってくる。いつまでもこのままでいられないと思うと、カシは不安定になる。

そんなある日、両親と昼食を食べているときに、出頭命令の書類を持った警官がたずねてくる。事情はわからないが、公園での時が終わろうとしている予感に、カシの思いは乱れる。

 翌日、公園でビエホがやってきたとき、「ここが痛い」と言って自分の太ももをビエホに見せ、動揺するビエホの前で下着をおろす。ビエホはおびえた様子で走り去る。どうしてそんなことをしたのか自分でもわからず、カシは虚しさと絶望にかられる。

 四日後、ビエホは公園にやってきた。もうああいうことはしないでくれとカシに約束させ、いつものように鳥の話を始める。それがビエホなりの許し方。いつか一緒に暮らせるだろうかと、カシはビエホにたずねる。結婚すればいいのか。カシは気がせくが、急ぐことはないとビエホは言い、カシはうなずく。

第2部 カフェ(p.107-p.136)

 もう14歳になったカシは、道で偶然ビエホを見つけ、声をかけてカフェに誘った。

 警官が家に来た後、不審に思った母親が学校に連絡をとり、両親はカシがずっと欠席していたのを知った。そして、母親は、カシの日記を読んでビエホの存在を知った。カシが公園に行った最後の日、両親はだまされているふりをしてカシを送り出したあと公園に行き、警察の協力を得て、カシを保護し、ビエホを捕まえたのだった。

 不登校は、ビエホがカシを休ませていたせいだと解釈され、問題視されなかった。両親は自分たちがしっかりしていなかったとショックを受け、腫れ物に触るようにカシに接する。カウンセリングも受けさせられたが、カウンセラーは自分で決めつけた結論に導こうとする。マルガがいなくなり、教室でのいじめはやんだ。クラスメイトが恋人と「寝た」と言えば、それはセックスの意味だが、カシはほんとうにビエホと公園で「寝ころんで」いただけだった。だが、カシの日記の言葉からビエホは捕まった。ビエホは、婦女暴行の前科のある、知的障害を持つ人間として、警察で取り調べをうけた。すべては見当はずれだった。

 カシがいくらたずねても、カフェで向き合ったビエホは警察であったことを話そうとせず、鳥の話をする。ビエホは前よりやせたが、前と同じスーツを着ている。

 別れる直前、結婚の話をしたときのことをおぼえているかとビエホが言いだす。鳥の脚につけた目印の輪は一生ついているが、人間にはそういう輪はないと言いながらビエホは、自分の指に巻きつけていた紙ナプキンの指輪をカシにはめてやり、カシもナプキンの指輪を作ってビエホに渡す。それから、カフェを出たふたりは別々の方向に歩きだした。

■所感・評価

 短いが、忘れ難い余韻のある作品。

 文体が魅力的だ。社会からはじき出された少女と50代の男性の出会いと別れが、現在形の自由間接話法でとりとめなく語られる。限りなくカシの視点に近い3人称で、最小限の説明とともに、日々のふたりのやりとりやカシの心の動きがこまやかに綴られる。そこから、ふたりがそれぞれ公園にやってくるまでのこと、かかえている痛みや生きづらさがだんだんと見えてきて、読者は物語にぐんぐんひきこまれていく。

 かぎかっこでくくられることのないふたりの会話は、ともするとどちらの発話か、すぐにはわからない。だが逆に、からみあい重なり合うそのような語りが、逡巡するふたりの感情をリアルに伝える。みごとなテクニックだ。

 版元のウェブサイトでは、「とらえがたく、居心地が悪く、心をかきみだし、強迫観念に満ちているが、同時に不思議に心をひきつける小説」と紹介されている。また、多くの新聞雑誌でとりあげられている。

「スペイン文学の最もユニークな声のひとつ。非常に個性的な文学世界」(「ABC セビーリャ版」ヘスス・モリーリョ)

「サラ・メサの蜘蛛の巣にからめとられたなら、彼女は何をしたのだろう、何をもってこうも惹きつけるのだろうと、読者は思いめぐらすだろう。読んでいる間も、本を閉じてから数時間、または数日たってからも」(「エルパイス紙」カルロス・サニョン)

「語りの時間を巧みに使った非常に文学的作品」(「ABCクルトゥラル紙」ホセ・マリア・ポスエロ・イバンコス)

「サラ・メサの新境地。恐れと不安、ためらいと不確実さからくる好奇心でページをめくらずにいられない」(「カオスエンラレ.ネット」イニャキ・ウルダニビア)

 読んだときに私自身は、小川洋子の作品を連想した。『博士の愛した数式』の主人公と博士のやりとりや、『ことり』のおじさんと実社会の関係性に共通点を感じた。だが、本書は加えて、13歳の主人公ならではの瑞々しさ、大人でも子どもでもない、イニシエーションの時期の切実さに溢れている。

 今年2月にスペインに行ったとき、多くの書店員に勧められたのがサラ・メサだった。本書や、その前に出た短編集Mala letra(へたな字)は、どの書店にも必ず置かれていた。スペインで、現在最も注目されている女性作家のひとりだ。

 これまで日本で翻訳出版されてきたスペイン文学は男性作家中心で、女性の視点はほとんど持ち込まれてこなかった。現在韓国文学の多くの女性作家が日本の読者に受け入れられてきているように、本作のような作品が紹介されることで、こんな書き手がいるのかという驚きとともに、スペイン文学の新たな魅力が日本の外国文学の読者に伝わるのではないかと思う。

 サラ・メサの著書には、2016年のニュースパニッシュブックスでもおすすめ作品に選ばれたCicatriz(傷跡)があるが、日本で最初に紹介する作品としては、本書か、短編集Mala Letra(へたな字)を勧めたい。

■試訳

(p.12の9行目から下から2行目まで)

 だいたい同じ時間に、年老いた男はまた現れる。もう楽しくないと少女は今は思い、自分をスパイしているのかもという考えが頭に浮かぶ。けれども、年老いた男の態度は前日と同様、おずおずとして遠慮がちだ。同じ服をきて、やはり驚いた、はじいった表情だ。ちょっとそこにすわっていいか、今回は許可を求めてくる。隠れ場所のスペースが許す限り、できるだけ離れてすわる。生垣の植え込みと木のあいだは数メートルしかないはずだ。男は脚を組み、手を膝において、彼女を見て、深く息をつく。今日は読まないの? たずねるが、ほかのことをきいてもよさそうな言い方だと、少女は思う、ただ沈黙をやぶりたいだけ。彼女はリュックから本をとりだす、学校で買えと言われた本、それを老いた男にさしだすと、男は前かがみになって受けとる。好きかい? ページをくりながら男がたずねる。さあね、場所による、気がまぎれるけど。男はまたにっこりする。退屈してるってわけか。ううん、彼女が言う。それから付け加える、フツーだよ、退屈してるのがフツー。

(p.27の18行目からp.28の21行目まで)

 今はいつも、スナック菓子を分けあう。飲み物も。ビエホは鳥のことか、ニーナ・シモンのことだけを話し、ラテン語―ビエホが言うには、トゥルドス・メルラ、ストゥルヌス・ウニコロール、アプス・アプスなどの学術名―か、外国語―ミリアム・マケバ、シモーヌ・シニョレ、ネルソン・マンデラ―の名前を発音する。空を観察するように、カシに双眼鏡を貸してくれて、飛んでいく鳥の見分け方を教えてくれる。茶色い平凡なスズメから、長い尾の気品あるセキレイまで。鳥類学の専門誌やハードカバーの入門書を持ってきて、ニーナ・シモンのほかの歌を聴いたり写真を見たりするように携帯を貸してくれる。頭にカラフルなスカーフを巻いて、タバコを吸っている物思わしげなニーナ、小さなリーナといるニーナ、二人とも細い三つ編みをゆいあげた複雑な髪型をしている。ピアノの前のニーナ、歌っているニーナ、若かりし頃のニーナ、成人したニーナ。まゆとまつげがきらきらしているニーナ、幸せそうに瞳を輝かせるニーナ、けわしいまなざしのニーナ。ニーナの生涯について、子ども時代から死ぬまで、語ってくれた。何度も何度も繰り返されて、たいがいいつも退屈するけれど、カシは止めようとしない。「うっとうしいのでは」と気づくと、ビエホのほうから口をつぐむからだ。カシ、いやなときは言っておくれ、ひどく真剣に、ひどく悲しげにビエホは懇願する、うっとうしがられたくない、うっとうしいことほどこの世で忌まわしいことはない! だけど、カシは思う、本当を言えばちょっぴりうっとうしいけど、おもしろい、話してる内容がじゃなくて、話し方が。忙しく動く表情、きらきらした目、髪をかきあげる手、そのあとピンと突っ立つ髪、狂人みたいに。

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