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    Fernando Aramburu

    インタビュー

     

    フェルナンド・アランブル(小説家)

     

    スペイン北部バスク地方では、スペインからの分離独立を目指す過激組織「バスク祖国と自由」(通称ETA)が、1950 年代後半から数々のテロ事件を起こしていました。その活動が最も激しかった時期にバスクで育った小説家のフェルナンド・アランブル氏は、長年温めていた物語を、2016年、長編小説『祖国』として発表。瞬く間に世界32ヵ国以上でベストセラーになり、スペインではドラマ化もされました。今年4月に河出書房新社より日本語版が出版されたのを機に、インスティトゥト・セルバンテス東京にて、ドイツ在住の著者とオンラインで結び、訳者の木村裕美氏も参加してトーク・イベントが開催されました。その時のインタビューの一部をまとめました。(是非木村氏のエッセイも併せてお読みください)

     

    私は、過激組織ETAが活発だった激動の時代のバスク地方で、たくさんのテロ事件を近くで感じながら育ちました。ETAはメンバー集めを組織的に行っていたため、当時のバスクの子どもたちは皆、15歳から17歳の間には、否が応でもこの組織との関わり方を考えなくてはなりませんでした。組織に加わることを決めさえすれば、後は組織が武器も、モチベーションも、戦いの機会も、言い訳もすべて用意してくれます。軍隊と同じです。私の周りでも、同級生が後に武器を持つようになったり、知り合いがテロの被害者になったりしました。

     

    『祖国』はこのような個人的な体験に基づいて書いた作品です。自分自身で見聞きしたことをベースにし、そこに資料で調べたことを加えて作品を組み立てていきました。歴史書のように実際に起こったことを知識として淡々と伝えるのではなく、フィクションとして、その周辺にあるエピソードや人物像を詳細に描きました。他の文学作品や新聞記事からの影響もあります。特に暴力で愛する人を亡くした人の心理状態や、ずっと続く恐怖に対する人間のリアクションについて書かれたエッセイなども参考にしました。

     

    少年の頃から書きたいと思って温めてきたテーマでしたが、このような複雑な人間の内面を描く物語は、文学的にも人間としても成熟していないと書けません。何十年も経ってようやくストーリーの筋書きや、相応しいトーンが見えてきました。そして、私の周りにいた個性の強い家族や親せき、近所の人々の特徴を組み合わせて、9人の登場人物たちを作り上げていきました。主役である2家族の9人をほぼ同じ分量で描き、全125章の中に散りばめるように配置しました。9人は皆個性が大きく異なります。活発な人物を書いているときは喜びで手が震えるほど筆が進みましたが、逆におとなしい人物を描くときは、なかなかページが進まず苦労しました。9人の立場はさまざまですが、作者として、登場人物を善人と悪人とに分ける裁判官にはなりたくなかった。私は長い年月を生きてきて、どんな悪人にも、必ずいい面があると信じているのです。現実社会では絶対に許せないような行為をした人であっても、小説の中では、人間なら誰しもが必ず持っている〝人間らしさ〟を描きたいのです。 

     

    自分が育った時代のこの不当な暴力について、私は公に発言をしないといけないと常々思っていたので、それを文学という形で発表し

    ました。私自身の政治思想はインタビューで述べたり、記事にも書いていますが、小説の中には反映させません。自分の意見を反映させる器として登場人物を利用することは、

    小説の美徳を損なうものだと考えていますので、本作品の登場人物たちには、さまざまな異なる意見や倫理感を持たせました。

     

     

     

    *  *  *  *  *

     

    なぜ私はETAに入って武器を手にしなかったのでしょうか…。フランコの独裁時代にバスクで育った私にも、他の少年たちに同調してETAの仲間になっていた可能性はありました。でも年を取って振り返ってみると、そうしなかった理由は3つあると思っています。ひとつは、カトリック教育です。私は信者ではありませんが、幼い頃から物事の良し悪しといった倫理観をカトリックの教育で教わり、人を傷つけ殺すことは悪いことだとわかっていました。2つ目は、都市で育ったため、同調圧力がある田舎で育つよりは逃げ場を見つけやすく、仲間を選ぶにもより多くのオプションがあったからです。3つ目は、文化や教育の影響です。読書をたくさんすることで、自分が生まれ変わり、人への思いやりが培われたと思っています。特に私の周りで多くの若者たちがETAに勧誘されていた時代に読んだアルベール・カミュの『反抗的人間』やバートランド・ラッセルからは多くのことを学びました。世の中の問題を暴力で解決しようとする動きに対して、これら3つが私のワクチンとなったと思っています。

     

    バスクは、人々に希望を与えて共存することを図るのではなく、恐怖心で民衆をコントロールすることを選びました。組織化された集団——政府であれマフィアであれ——の暴力を止めることはとても困難です。人々は口を閉ざすか、その土地から出ていくか、あるいは最も安心できる選択肢だと考えて、組織に協力するしかありません。バスクの人々が熟考したうえでETAを選んだのではなく、参加するだけでいい組織のメカニズムがそこに存在したのです。独裁者のパレードに対して、民衆が興奮して声援を送ったり、旗を振ったり、さらには感動して涙を流したりするのと同じことを、生き残ろうとするバスクの人たちがしていたのです。

     

    特に知り合いばかりに囲まれている田舎では、暴力を支持するデモに行かない人がいれば目立ちます。また、レストランや薬局、食料品店などを営んでいる場合は、店にETAの旗やスローガンを掲げないと、商売の妨害やいやがらせを受けます。そんなことが続くと、消極的ではあっても、しだいにETAに妥協する雰囲気が形成されていくのです。一方、そうやって恐怖心を利用して得たいものを手に入れることに味をしめた組織側は、どんどん歯止めが効かなくなってしまいます。組織のトップがテロを終わらせる方向で政府と交渉していても、若いメンバーたちは血気盛んで、トップを弱腰だと非難する。そんな暴力の時代が数十年間続きましたが、外国から支援を受けられなくなったり、スペイン警察の能力が高まって上層部の多くが刑務所に入れられたり、暴力に疲れ切った社会からの支持を失っていったことで、最終的にはETAも自分たちの手段は逆効果だと理解して武器を置き、2018年に解散声明を出しました。 

     

    *  *  *  *  * 

     

    〝祖国〟という言葉は、スペインだけでなく多くの国で、汚れた言葉とみなされることがあります。そのため、私のこの小説がフランスやドイツ、ポーランドなどで翻訳出版された際、タイトルはスペイン語のまま〝PATRIA〟(祖国)とされました。ナチスの時代など暗い過去を連想させ、不快感が付きまとうそれぞれの国のこの言葉は避けられたのです。スペインでは、バスク語やカタルーニャ語など他の公用語の〝祖国〟とは異なり、スペイン語の〝PATRIA〟という言葉は、多くの人にフランコの独裁時代や軍隊を思い起こさせます。でも、私はこの小説を書き始める前から、タイトルは〝祖国〟にすると決めていました。それまで私が書いた小説にはタイトルが一語だったものがなく、そろそろ一語のタイトルにしたいと思っていたからです。また、9人の登場人物をはじめ、バスク人は誰でも〝祖国〟という言葉になんらかの影響を受けているからです。 

     

    当初、この小説はバスクというとても〝ローカル〟なテーマのため、スペイン以外では理解してもらえないのではないかと心配していました。しかし、ドイツの編集者と話をした際、『祖国』はスペインのバスク地方のある特定の時代を描いた作品ではあるけれど、そこに描かれている「2つの家族」「暴力」「恐怖」、そして小さなコミュニティで起こりがちな「同調圧力」というテーマは世界中どこでも通じる普遍的なものだという意見をいただきました。パンデミックの前に私は世界中を旅して、いろいろな国の読者と交流しましたが、アルゼンチンでもイタリアでも、読者は、バスクの問題をそれぞれの土地の問題と重ね合わせたり、比較したりして読んでくれていました。また歴史的な紛争といった外的な要素だけでなく、『祖国』にはパーソナルな側面——家庭内での家族の関係、個人の心の内など——も描かれているので、読者一人ひとりが登場人物の誰かに感情移入することができるでしょう。

     

    私は自身をコスモポリタンなヨーロッパ市民だと認識し、国境を意識しないですむヨーロッパのシェンゲン協定や共通の通貨をありがたく思っています。また、国を越えた人と人のつながりが好きです。でも私にも感情はありますので、祖国の人、食べ物、言葉、香り、景色などへの愛情があります。私はそれを愛国心・祖国愛と呼びます。自分のアイデンティティを形成する〝スペース〟のようなものへの愛です。政治とは関係がない、ポジティブなものです。私の妻はドイツ人ですが、私は彼女を外国人とは思わないし、彼女も私を外国人とは思わず、国籍でもめたことなどありません。逆に、国家を〝プライベートな庭〟のように捉え、立ち入りをその土地の人たちだけに限定するナショナリズムの思想は嫌いです。それに反対するためにだったら、私は闘います。言葉を使ってね。

     

     

    バスク人と他のスペイン人との関係は、ETAが解散した後、急激によくなったと思います。バスクのツーリズムが花開き、バスクの食文化が高く評価されるようになりました。バスク人にとって、食事は宗教にも通じる大切なものですから。また、伝統が残る一方、産業が盛んで、とても発展した地域です。パンデミックが終わったら、ぜひ日本の皆さんにも、バスクを訪れていただきたいと思っています。 

     

    フェルナンド・アランブル(小説家)

     

    1959年、バスク州サン・セバスティアン生まれ。1985年からドイツ在住。実力派の書き手で、アンティブラ3部作のLos ojos vacíos(うつろな目)、Bami sin sombra(陰影のないバミ)、La Gran Marivián(大女優マリビアン)の他、小説に、Fuegos con limón (炎とレモン)、El trompetista del Utopía(ユートピアのトランペッター)、Viaje con Clara por Alemania(クララとドイツ旅行)、Años lentos(遅い年)、Ávidas pretensiones (あくなき野望)、Las letras entornadas(文学への扉)、そして今年出版された長編Los vencejos(ツバメ)がある。エウスカディ賞、マリオ・バルガス=リョサ賞、王立スペイン語アカデミー賞、トゥスケッツ小説賞、ビブリオテカ・ブレベ賞などを受賞。 

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