その翼を手に入れるための条件ははっきりしていた。「空を飛ぶ能力を、決して他人のプライバシーを知るために使わないこと」。彼はうなずいた。その時は心から守るとかりそめの誓いを立てた。そして長い間ずっと守りつづけた。長年のあいだ地上での過去を忘れ、鳥に混じって飛んだ。肉体は老いることがなかったが、喜びを感じることもなかった。しわもできないが人と抱き合うこともない、それが空中での暮らしというものだった。ある嵐の日の午後、海面近く低く飛んだ、そのときまでは。人ならぬものとして知り合い、まだ人にならぬうちに再会した男と女が行き来する旅。切望と出逢いの、生々しい物語。骸骨女の伝説に着想を得た、ふだんはわからない、目に見えない、気付かない人間的なものについての物語。